ふと気づいたら、あたり一面「冬ソナ・ヨン様・韓国ドラマ」ブームである。私のまわりの出版業界でも、出版不況が続く中、なぜかそこだけ景気のいい話が聞こえてくる。私が在日だと知っている版元さんは「韓国ものの企画なら何でもいいから 」と太っ腹なのか、見境がないのかわからない相談をしてくる。
妹がヨン様の恋敵役だったパク・ヨンハの通訳でテレビに出まくっているにもかかわらず、完全にブームに乗り遅れた私。でも、何と言われようが恋愛ドラマに興味なし。韓国の俳優もドラマも知らないのに知ったかぶりして書籍なんて作れないもんね、と開き直っている。
ただ、気になるのはヨン様にダーっと走っている日本のおばさま達である。先日も妹に「冬ソナ ファンの集い」のビデオを見せてもらった。300人の定員に5000通の応募があったそうで、会場で通訳に立った妹は「すごい熱気で、怖かった」と言っていた。
集まったファンにインタビューしているシーンでは、なまヨン様に会えた喜びに上気しながら熱く語っているおばさまがいっぱいいた。たぶん私と同世代の人も多いはず。杉良の流し目にはまれない、松健サンバを踊れないにしても、冬ソナ・ヨン様でいいのか? 他人の趣味に口をはさむ気持ちはないが、同世代だけになんだか寒い。
「なぜ冬ソナに、はまるのか?」その分析はたくさんの人が語っているし、冬ソナを観てない私に語る資格はない。ただ、日本のおばさまには確固たるおばさま文化がないのだなぁ、と感じるのみである。ここでいうおばさま文化とは、おばさまが他人の価値観ではなく、年齢を重ねた自分の価値観で生きる世界のことである。
たとえば韓国に行くたびに思うのはゆるぎないアジュンマの強さである。若者に惑わされないし、媚びない。そこらへんのドラマに負けないような密度の濃い現実を生きながら、アジュンマ同士の横のつながりも濃い。強いから人に優しい。これが正しい「アジュンマ道」だと言わんばかりの威風堂々とした言動が気持ちいい。
また、パリに住んでいるフランス人の友人は、運転する時はマダムの運転する車にすごく気を使うと言っていた。パリのマダム達は世界一強気だから、トラブルになったら必ず負けると言う。「どうして?」と聞く私に、男性たちが誉めちぎるから怖いもの知らずになる、という答え。
強いおばさまは美しい。たぶん韓国のおばさまは冬ソナブームを笑い飛ばすだろうし、パリのおばさまは恋愛は観るものではなく、自分がするものだと言うはずだ。私も強く気高いおばさんになりたい。
ユン・ヤンジャ 1958年神奈川県生まれ。在日3世。和光大学経済学部卒。女性誌記者を経て、91年に広告・出版の企画会社「ZOO・PLANNING」設立。