今、当社はちょっとした結婚ブーム。先日も女性社員の結婚式があり、社員こぞって新婦の門出をお祝いした。当地の結婚式は日本人から見るとちょっと味気ない。通常は禮式場で行われるが、式と披露宴を含めても1時間以内には終わる。
味気ない理由の一つは韓国にはいわゆる披露宴がないことで、式が終わったら別室に用意されたビュッフェ形式またはセットメニューの食事を適当に食べて、三々五々解散となる。メニューはなぜかカルビタンが多い。日本のように、来賓の長々とした挨拶や友人の余興もない。食事の場に新郎新婦が現れないことも多いし、時間に遅れた人は新郎新婦を見ないで食事だけして帰る場合もある。
ただ、先日の結婚式は少し趣があった。というのは当社の日本人社長が式の途中で新婦の会社代表として特別にあいさつしたのだ。最近、韓国語の上達が著しいと言われている社長は、流暢な韓国語で若い二人の門出を祝福した。突然の、しかも日本人による韓国語の祝辞に場内からは拍手喝采。式は一気に盛り上がった。
ところで、結婚して晴れてご夫人となった女性は、英語世界ならミスからミセスまたはミズと呼称が変わるが、韓国の職場では依然としてミスと呼ばれているのがどうにも腑に落ちない。当社にも何人か該当者がいるが、皆さん永久ミスである。ちょっとずるい気もするがみんなが幸せなら良しとしよう。
女性を欧米風にミスと呼ぶのは一般的だが、男性をミスターと呼ぶ時は要注意である。英語社会では社長でもミスターだが、当地では学生や若者を呼ぶ時以外はあまり使われない。日本ではよく使われる「○○君」はさらに注意を要する。当地では死語に近いからだ。
かなり以前だが、当社のある若手駐在員が韓国人のスタッフをいつも「君」づけで呼んでいた。彼としては、極めて自然にしかも親愛の情を込めて呼んでいたのだが、これが労使問題に発展しかけたことがあった。2人の年齢差が近すぎたのも運が悪かった。若い社員を呼ぶときはフルネームに「氏」をつけるのが普通だが、日本人はフルネームに弱いので苦労する。やむなく日本式に「さん」づけで誤魔化している場合が多い。
ちなみに小生は時々「トッケビ氏」と呼ばれる。トッケビとは鬼のことだが、大西が鬼氏と誤解された結果である。日本では仏の大西と呼ばれていたのだが。肩書のある人には名前の後に必ず肩書をつけるが、さらに上役や外部の人には日本語の「様」という意味の「ニム」をつけ加える。金部長なら「金部長ニム」。仕事以外でもタクシーの運転手さんは機械(?)を操作するから「技士ニム」。学校では「先生ニム」。病院では「医師先生ニム」。舌を噛みそうだがいかにも偉く聞こえる。
肩書を間違ったら一大事だが、当社には例外がある。この間までミス朴と呼ばれていた女性が今は朴部長ニム。実際の肩書ではないのだが、彼女が麗しい外見とは裏腹に、部長以上に怖い存在だからである。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。