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2004/02/20

<随筆>◇実尾島◇ 新・韓国日商岩井 大西憲一 理事

 今、韓国で一番人気のある島は?済州島・・いいえ。独島(竹島)・・惜しい。答えは実尾島(シルミド)。実尾島は仁川の近くにある、地図にも出てこない無人島で、これまでは韓国人でも知っている人は少なかったが、映画「実尾島」の爆発的な人気のお陰で、新たな観光名所に浮上している。

 小生も早速、映画館に足を運んだが、噂どおりの衝撃的な映画だ。ストーリーは約30余年前の実話をもとにしている。68年1月21日に北朝鮮の武装工作員が青瓦台を襲撃する事件が発生したが、これに対抗して、「金日成の首を取れ」との上部の指令で、死刑囚など底辺の人生を送っている荒くれ者たちを仁川の近くの無人島「実尾島(シルミド)」に集めて、特殊部隊いわゆる684部隊(68年4月創設という意味)を結成、地獄のような激しい訓練で徹底的に鍛え抜いて無敵の精鋭部隊を作った(訓練中に31人中7人死亡していることでも訓練の激しさが分かる)。

 そして上部の実行命令を待っていたが、国際情勢の変化で逆に部隊の解体と訓練兵抹殺の命令が下り、これを察知した訓練兵が反乱を起こして訓練教官を殺害、バスを乗っ取って青瓦台を目指すが、最後は全員自爆する、という壮絶な物語である。

 衝撃的な内容に加えて、安聖基、薜景求など超一流の演技派俳優の力演もあって、観衆は息つく暇もなくスクリーンの中に吸い込まれる。最後に軍隊に完全包囲された訓練兵がバスの人質を釈放した後、全員で自爆するシーンは涙なくしては見られない。そして、上映が終わった後は、やり場のない憤りと空しさが心に充満する。自爆した訓練兵も、訓練兵の反乱で殺された訓練教官も、国家権力の犠牲者に他ならない。さらに言えば、南北の不幸な歴史が生んだ悲劇であろう。

 映画の大ヒットによって、これまでベールに包まれていた実尾島事件が露になり、いろんな所で波紋を呼んでいる。映画の冒頭で「朴正熙の首を捕りに来た」と叫ぶシーンに出てくる、北朝鮮特殊部隊の唯一の生存者の名前が表面化したため、同氏の息子の結婚が破談になった。

 実尾島事件の生き証人もマスコミに登場した。訓練教官のナンバー2で、訓練兵に対しては鬼のような厳しさの中にも優しさを秘めていた「チョ大佐」は、反乱事件の直前に出張命令で島を離れたために難を免れたが、テレビのトークショーに出演した「チョ大佐」によれば、「訓練兵に対する射殺命令はなく、劣悪になった待遇に反乱した」のだという。アレレである。

 また映画では上官から部下の訓練兵射殺命令を受けて悩んだ安聖基扮する部隊長がピストル自殺したが、実際は訓練兵に殺害されたらしい。しかし、これでは観客を呼べないと判断した康祐碩監督の脚本が、結果的には大成功に繋がったのだ。少し腑に落ちないが映画だから良しとしよう。映画「実尾島」は2月6日現在、韓国映画史上初めて900万人を突破した。日本での大ヒットも間違いなしである。


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。