ここから本文です

2005/10/21

<随筆>◇東部二村洞◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 古いながらも楽しい我が家、ソウルでのチョンガー生活ももうすぐ11年になるが、小生の住まいは日本人街として有名なトンブ・イーチョンドン(東部二村洞)の一角にある漢江マンション。

 齢30数年のこのマンションは今どき珍しいエレベーターなしの5階建てで、いかにも年季の入った風貌だが小生は大変気に入っている。古いだけに余裕たっぷりの間取りも魅力だが、田舎者の私には何といっても広い敷地内の自然が心地よい。

 春はケナリ(レンギョウ)をはじめ桜、ツツジ、ラベンダー、それに名も知らない花々が咲き乱れる。いながらにして花見酒を楽しめる。銀杏並木はこれからが収穫期で、住民のアジュンマ(オバサン)たちの銀杏の実の奪い合いが始まる。鮮やかな紅葉も楽しみ。草木を這い回る虫を狙って、いろんな鳥がやってくる。野鳩、スズメ、ガチ。動物も多い。犬、猫、タヌキ(よく見たら隣の奥さん)、大トラ(いつも酔っ払ってうるさい階下の主人)。室内にはバキボレ(ゴキブリ)が走り回る。

 最近特に増えたのがトドクコヤギ(泥棒猫つまり野良猫)。各棟の1階床下を根城にしているが、情に厚い住民(小生もその一人)が定期的に餌を与えるので野良猫にしては元気がよく、夜ともなるとヤオンヤオン(ニャーゴの韓国語)とうるさい。

 ちなみに犬は当地ではモングモングと鳴く。先日は近くに住む子猫がやけに可愛いので捕まえようとして引っかかれた。自然児はたくましい。日曜日に朝寝を楽しんでいると、ベランダでクークーさえずる鳩に起こされる。小生がとりわけ気に入っているのがガチ。カラスぐらいの大きさだが白と黒のコントラストが格好良く、流麗な姿は正統派韓国美人を連想させる。鳴き方にも品がある。それにカラスのように残飯を漁ったりしないし、人間を襲ったりもしない。日本のカラスも少し見習って欲しい。

 マンションの入り口に長年、店を構えているロイヤル不動産の金社長がこの所元気がない。最近、不動産取引がサッパリだとのこと。原因は8月末に政府より発表された不動産総合対策の煽りで、マンション購入がばったり途絶え、トンブ・イーチョンドンには約70軒の不動産屋さんがいるが、90%以上が開店休業に近いとぼやいておられた。

 不動産には縁のない小生には総合対策の詳細は知る由もないが、不動産税の負担が大幅増加するらしい。加熱状態が続く不動産市場の冷却化に政府は躍起となっている。もっとも、小生が入居している漢江マンション・32坪型の相場が何と11億ウオン。近い将来に予定されている再建築の権利含みのための高価格らしいが、これでは簡単に買い手も見つかるまい。

 今日も得意先と焼酎をたらふく飲んで、11億ウオンの超高級(?)マンションの裸電球の階段を息を切らせて我が家に辿り着いたが、数ヶ月前から隣家で買っているマルチーズがいつものようにドア越しに甲高い声で吠え立てる。いつか補身湯(犬なべ)にしてやるからな。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。昨年4月、韓国双日に社名変更。