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2005/04/22

<随筆>◇NANTAですっきり◇ 韓国双日 大西憲一 理事

 春らんまんの季節…なのに日韓の間に暗雲が漂いだした。昨年来の熱狂的な韓流ブームで蜜月時代到来と思っていたら、独島問題、教科書問題で一気に形勢が変わり、折角のお花見日和もコッセムチュイ(花冷え)に見舞われて花見気分どころではない。 両国の関係は一筋縄では行かないのは分かっているが、それにしても雲行きが怪しい。

 しかもこの問題はお互いの立場、メンツが絡んで、出口が容易に見えない。普段は会社の同僚と何でもオープンに話し合うのだが、今回はどうもいけません。こういう時は焼酎でもあおってモヤモヤを吹き飛ばそう、というのも危ない。酒の弱い小生は酔いに任せて何を口走るか分からないからだ。他に何かすっきりする清涼剤のようなものは…、あったあった、今や韓国が世界に誇る「NANTA」があるではないか、という訳で、早速、気の置けない地元の友人と「NANTA」劇場に向かった。

 「NANTA」とは「乱打」のことだが、4人の若い料理人がまな板に包丁を叩きつける強烈なノンバーバル・ミュージカルパフォーマンスで、最初に見た時はそのド迫力に圧倒された。韓国の伝統農楽の流れを汲むサムルノリのリズムをベースにした独創性豊かな、世界唯一の包丁パフォーマンスである。男性に混じって紅一点の女性料理人のナイスバデイーも目を楽しませる。このド迫力の虜になった小生はこれまで旅行に来た友人や親戚を案内しながら「NANTA」劇場に数回足を運んでいるが、その都度、元気を注入される。

 舞台と観客との一体感も魅力の一つで、観客席の大半を埋める外国人も料理人との掛け合いを楽しむ。ここには国籍も国境もない。包丁を始め、台所用品を打楽器に代えての素朴なリズムとコミカルなストーリーを音楽や芸術と呼んでいいのか分からないが、97年の初公演以来、爆発的な人気を博した「NANTA」は、今やブロードウエ―に専用劇場を持つほどのメジャーになった。包丁が巨万の富を稼いだのだ。この強烈なパワーは、キムチと極辛の唐辛子をこよなく愛する韓国人だからこそ出せるのだ。

 台所用品を打楽器に代用するユニークな発想は、実は韓国には昔からあった。小生が始めて韓国の土を踏んだ80年代初めは、まだカラオケが普及しておらず、宴会になると目の前の食膳の箸をバチに持ち替えて、器用に食器を叩きながらリズムを取ったものだ。それが今、「NANTA」になって受け継がれている、と言うのは私の勝手な解釈である。

 この日もキムチパワーに十分酔いしれたあと友人と夜の街に繰り出した。すっきりした後のビールは実に美味い。「NANTA」の余韻を肴にひとしきり痛飲した後、酔いが回った友人は、ろれつの回らない舌で歌い出した。

 「独島は…ウリタン。竹島は…モルラヨ」(独島は…我が領土。竹島は…知らないよ)


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。昨年4月、韓国双日に社名変更。