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2005/03/18

<随筆>◇Mさんはどこに?◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 元ミスコリアのタレントが姦通容疑で逮捕というニュースにギクッとした。別に身に覚えがあるからうろたえた、というわけでは決してなく、「韓国にはまだ姦通罪があったのだ」ということを忘れかけていたからだ。

 このような法律は日本をはじめ自由主義国家ではほとんど無くなったと思うが、韓国では歴然として残っている。姦通罪といえば遠い昔、韓国からの助っ人として日本のプロ野球でも活躍したH選手の事件を思い浮かべる人が多いと思うが(古すぎるかな?)、小生は80年代に美人女優として鳴らしたC嬢の事件を忘れられない。というのは、当時、C嬢はその清楚な美貌で世の男性をとりこにしていたからだ。小生もとりこにされた一人だった。私の書棚に眠っている84年発行の「別冊宝島」に掲載されている四方田犬彦先生の「いま韓国映画が面白いのだ!」の記事を引用させていただくと、当時の韓国女優の美しさがよく分かる。

 「女優はと言うと、これはもう信じられぬほどの美形がいる。思慮深い貞淑さを湛える金慈玉、怜悧な顔とりりしい視線の愈知仁、無垢な情念をすぐさま泣き顔に出すC嬢、そして極めつけは明晰な美花と形容すべき張美姫だろう」

 さすがに四方田先生の見事な表現には脱帽だが、この信じられぬほどの美形の中でも私はC嬢が好みだった。韓流ブームで大人気の昨今の韓国女優など足元にも…というと言い過ぎだが、このC嬢があろうことか姦通罪で逮捕というニュースを聞いた時は、ショックで暫く食事がのどを通らなかった。この事件で彼女は映画界を引退し、それから暫くは私の韓国映画熱も冷めた。

 余談だが、極めつきの美花と形容された女優も、その後、別のスキャンダルに巻き込まれて苦労したようだが、数年前にロッテホテルで開かれた彼女のサイン会で実物を拝見した時は、相変わらずの美貌だった。サイン入りのTシャツは、今も大事に保管している。

 これも昔の話だが、釜山駐在時代の取引先で韓国ビジネスの大先輩・Mさんは、赴任したばかりの小生にとって韓国社会の、特に夜の先生だったが、この先生は無類の酒好きで夕食時のビールの味を最高に保つために昼間は水一滴も飲まないと言う徹底振り。今でいうオルチャン(イケメン)で韓国語も流暢な独り者のMさんは巷で人気者だったが、それだけ誘惑も多く、ある時この法律に引っかかりそうになった。

 慌てたMさんを見て小生は韓国の親友で顔の広いKさんに相談したが、Kさんは東奔西走して危機一髪で事なきを得た。さすがのMさんも暫くは自重していたが、その後、韓国女性と正式に結婚して一緒に日本に帰った。日韓国際結婚の先駆者の一人である。ところが暫くして日本の会社を退職したMさんの消息が途絶えてしまった。奥さんと離婚したとか、韓国で事件に巻き込まれたとか、いろんな噂は聞いたが、大恩人のKさんにも連絡なし。お世話になった元先生の安寧を祈るばかりである。

  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。昨年4月、韓国双日に社名変更。