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2005/02/25

<随筆>◇「その時、その人々」◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 話題の映画、「クッテ・クサラムトウル(その時、その人々)」を見た。1979年10月26日、朴正熙大統領はもっとも信頼する部下の一人であるKCIA(中央情報部)・金載圭部長の凶弾に倒れたが、歴史的な「その時」、現場に居合わせた「その人々」の動きをドラマチックに再現した映画である。当時、朴大統領は側近の金部長、金部長のライバル・車チジョル大統領警護室長らに囲まれ、お気に入り歌手・沈守峰のヒット曲「クッテ・クサラム」や好きな日本の演歌を聞いて寛いでいた時の思わぬ惨劇である。

 上映に当たっては、朴大統領の名誉を傷つけるとして大統領の長男より上映禁止仮処分が申請されたが、3カ所のシーン削除だけで上映されたという曰くつきの映画でもある。間違いなく歴史を変えた謀反劇は韓国ではもちろん、日本でもよく知られているのでここでストーリーを語るまでもないが、金部長が引金を引くまでの心の葛藤以上に、謀反を決めた上司に心ならずも死を覚悟して追従するハン・ソッキュ扮するチュ課長の追い詰められた心情が観衆の胸を締め付ける。

 いつの時代も上司と部下の関係は難しく、強運と悲運、天国と地獄が紙一重で複雑に絡んでいるが、私が住んでいる会社世界も似たようなものだ。上司の挫折で一緒に不遇を強いられた有能な友人は数知れない。もちろんその逆のケースも多い。小生の場合は…。凡人はドラマにならない。

 ところで朴大統領といえば切れ味鋭く短気でワンマンという印象が強いが、この映画では陰で「ハラボジ(おじいちゃん)」と呼ばれたように、ソン・ジェホ演ずるいかにも温厚な好々爺風の大統領は意外だった。時を同じくして、MBCの大河ドラマ「英雄時代」に出てくるドッコ・ヨンジェ扮する朴大統領はイメージどおりの精悍さで映画とはまるで違う。10年ぐらいの時代差はあるが、62歳にしては老け過ぎのように感じたが…。

 余談だが、現代や三星グループの創始者や実存者をモデルにしたドラマ「英雄時代」は予定を大幅に繰り上げて放映中止されそうで、その背景についていろんな憶測を呼んでいる。そう言えばこの映画の上映も今の政局から見てかなり微妙な時期と言えない事もない。

 朴大統領が凶弾に倒れてから25年を過ぎたが、数年前より国民の間で朴大統領の人気が上昇している。戦後の疲弊した韓国経済が驚異的な成長を遂げたのは朴大統領の強力なリーダーシップに負うところ大なる事を多くの人が認めているからだが、もちろん、プラスの遺産が大きければ大きいほど負の遺産も大きく、朴大統領の評価については常に議論が分かれている。ただ難局に直面した時、人々は強烈な個性と実行力のあるリーダーを求めがちだが、韓国だけでなく日本や米国など他国も似たような状況にて、成熟した社会では朴大統領のような指導者は似合わないのだろうか。


  おおにし・けんいち  福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。昨年4月、韓国双日に社名変更。