渓流魚のヤマメのことを韓国語では「山川魚(サンチョノ)」という。日本語では漢字で「山女」と書きなかなか情緒があるが、「山川魚」というのも味がある。韓国でも最近は養殖をやっているので、レストランなどでも登場するようになった。サケ、マスの系統だから料理としても結構いける。
この冬、テレビを見ていると江原道の華川で「ヤマメ祭り」をやっていた。華川というと春川の北で鉄原に近い。かなり北の方だから冬は大そう寒く、川や湖はガチガチに凍る。「ヤマメ祭り」は地元の“町起こし”で、凍った川を舞台にいろんなイベントをやって観光客を集めようというのだ。氷の上でのスケートやソリ遊びのほか、ヤマメ釣りが目玉になっている。
「真冬のヤマメ釣り」というので寸暇を惜しんで出かけた。ソウルからバスで約三時間。”ヨン様“の春川経由でかなり遠い。出かけてみると、氷に穴を開けて釣り糸を垂らす「オルム・ナクシ(氷釣り)」のほか、川を凍らせずに釣堀のように区切った釣り場もあった。これが結構広くてルアーにはもってこいだ。
入場料一万ウォンで、三尾までは持ち帰りもOKという。ルアーをとっかえしながら三時間ほどやって四尾釣れた。みんな隣の人にあげたが、結構大きなヤマメで三〇センチ前後だった。大きなヤマメは鼻曲がりで“サケ化”しており、体重もずっしり重い。養殖モノをイベント用に放流しているということだったが、四尾でも結構な手ごたえで大いに満足でした。
昨年秋、韓国のプロのルアー師の案内でやはり江原道麟蹄の山奥に初めて渓流釣りに出かけた。「コクチマス」が狙いだったがぼくはまったくダメだった。今回はその”復讐戦”で、管理釣り場ではあったが何とか思いを遂げたというわけだ。
ところで華川のイベントは週末で大そうな人出だった。駐車場の車には釜山ナンバーもあったから、遠方からの客も多かったようだ。冬のレジャーに焦がれる近年の韓国社会を実感させられた。最近、韓国の若者の間ではスキーが最もカッコいいスポーツだとか。
華川というと南北軍事境界線の前線に近い。あちこち部隊が駐屯し、週末で町には外出の兵士の姿も多い。華川の北の鉄原は朝鮮戦争では激戦地で知られる。華川などこれまでは観光地からはほど遠かった。それが今や「冬の観光地」として南端の釜山あたりからも観光客がやってくるようになった。
安保問題を含め韓国社会の大きな変化を物語っている。むしろ近年、こうした軍事的最前線の地域は「安保観光」と称してその“地の利”を町起こしに活用している。「オルム・ナクシ」では伝統的にはワカサギ釣りが人気だ。これは日本でもやっているが。ソウル暮らしは冬でも退屈しない。ぼくにとっては新しい発見だった。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。