韓国人のもっとも好きな食べ物は当然、焼肉と思われているが、小生の経験ではダントツに刺身である。老若男女に関係なく、「ご馳走するけど何が食べたい?」と聞けば「フエ(刺身)」と返ってくる。健康志向で肉離れが進んでいるのかも知れない。新鮮なフエを食べるには、日本ならお寿司屋さんだが、当地では魚料理中心の「日式」レストランと言うことになる。高級「日式」になると銀座の一流店も顔負けの値段だが、新鮮な材料と、物凄いボリュームに日本人はびっくりする。まさに「タイやヒラメの舞い踊り」状態である。
「日式」以外に寿司専門店も増えだしたが、特に回転寿司の進出が目立つ。「日式」に比べれば値段も手ごろで若い人に人気がある。小生も刺身、寿司には目がない人間の一人だが、最近気になっていることがある。それは、寿司のネタがやけに大きくて長いのである。寿司の醍醐味の一つは寿司飯とネタの絶妙のバランスだが、当地ではこのバランスが完全に崩れていて、パチンコ玉ぐらいの大きさの寿司飯の上に、魚の切り身が長々と乗っかっている。当然、寿司飯は見えない。
最近、会社の近くに開店した回転すしチェーンの「さかなや」は特に長くて、先日、持参した巻尺でヒラメの握りを測ってみたら何と17センチもあった。20センチの大台突破は近そうだ。測っていると板前の兄ちゃんが怪訝な顔で飛んできた。長さを競っている同業者と思ったのかも知れない。行きつけの寿司屋の親父の話では、「数年前から江南から流行ってきたが、高級店になるほど長い。その分、魚を堪能できるので客が喜ぶ」分かるような気もするが小生は好きではない。これはもはや寿司とは言えないからだ。
先般、韓国人の友人と食した時は、友人は何と長いネタだけを引っ剥がして醤油につけて食べている。寿司飯は無視されている。最初から刺身を注文しろと言いたい。幸いに長くできないネタもある。アワビ、ウニなどがそうだが値の張るものばかり。ケブルも長くない。ケブルとはつるんとした赤くて細長いナマコ風の奇怪な生物で最初は敬遠していたが、食べてみるとシコシコと歯ごたえがあって美味い。韓国南部の干潟に生息し、日本語では「ユムシ」と言うようだが日本では見たことがない。
余談だがケブルとは犬の○○という意味で形が似ているらしい。このケブルの握り寿司が日本のベストセラー漫画「将太の寿司」の最終版番外韓国編で出てくる。「将太の寿司」は一人の少年がすし職人として苦労に苦労を重ね、遂に全国大会の王者に輝くと言うサクセスストーリーだが、99年にLGグループで社員必読書に指定されてから韓国でも大ブレークし、韓国語翻訳版「ミスターすし王」として250万冊販売されている。この本が最近、韓国財閥のCEOの経営必読書として再度注目を浴びている。KTの李社長は常務クラスの役員に全44巻をプレゼントしたとのこと。将太が目標とした「お客のへの愛情」が経営にもあい通じるようだ。ところで最近の韓国の長いすしネタを見て将太は何と言うだろうか?
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。昨年4月、韓国双日に社名変更。