今年はトリ年だ。日本ではスズメやハトなどニワトリ以外も「トリ」として考えるが、韓国ではエトの「トリ」といえばニワトリ(鶏)―「タック」を意味する。したがって韓国ではトリ年は「タック・ティ」といい、決して「セ(鳥)・ティ」とは言わない。ちなみに「ティ」とはエト(干支)のことだ。
余談ながらぼくはヘビ年だから「ぺム・ティ」となるが、どこか「ペンティ(韓国人はパンティのことをこう発音する)」に似ていておかしい。
韓国でトリ(鶏)というと忠清南道にある「鶏龍山」や慶尚北道の慶州の古名である「鶏林」などを思い出す。前者では「鶏」と「龍」が一緒になっており、どうやら韓国では共にめでたい生き物のようだ。
そういえば韓国の伝統的な結婚式では、婚礼のサン(膳)に生きた鶏を供える。卵をたくさん産むので出産祈願だろうか。あるいは暮らしの財産として持参品の意味があったのだろか。興味深い風習だ。いずれにしろ鶏はめでたい生き物には間違いないようだ。
慶州を「鶏林」というのは、新羅の王族伝説で鶏が鳴いた林が「慶州・金氏」の誕生地になったというところからきている。面白いのは新羅の慶州とは反対の方角で、百済にあたる全羅南道霊岩に「鳩林」という地名がある。月出山の麓で近年、王仁博士の故郷だとして立派な記念館もある。
東の「鶏林」に西の「鳩林」とは楽しい。「鳩林」の由来については聞き漏らしたが、奇岩・絶景の月出山の美しさとあいまって、ぼくにとっては数少ない何回も行ってみたいところだ。
ニワトリといえば韓国では近年、「タック・ハンマリ」や「タック・カルビ」「チム・タック」など新しい(?)鶏料理が流行だ。値段が安く手軽に食べられるとあって、若い人たちや女性に人気だ。
このうち「タック・カルビ」は、鶏のぶつ切りとキャベツやタマネギなど野菜を真っ赤にして甘辛く炒めたものだ。「春川(チュンチョン)」で始まったことからヨン様ブームの日本人にも有名になった。先日、春川にある翰林大学に講演に出かけた際、タクシーの運転手は「不景気の中でタック・カルビ屋だけは日本人観光客のおかけでにぎわっている」といっていた。
鶏では手羽先が面白い。焼き鳥やから揚げにすると酒の肴に最高だが、韓国では「手羽先は旦那に食わすな」という妙な話がある。よく聞く話で、手羽先は鶏の羽にあたるため、それを食べると羽が生えてどこかに飛んでいってしまうーつまり旦那が浮気をするというのだ。
そこで手羽先は旦那に食わせず奥さんが食べてしまうのだが、となると奥さんが浮気をしないか気になるではないか。本来は栄養価が高いので奥さんが食べたということらしい。しかし近年の韓国における奥さん方の”不倫状況”をみると浮気効果も相当ありそうですね。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。