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2006/11/17

<随筆>◇ペンギン・アッパ◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 先日、ある国際会議で大和総研・原田先生の講演を聞いて驚いた。議題は日本、韓国で同時進行している少子化に対する問題についてだが、今のペースで少子化が進むと最後の韓国人の出生は2576年に、日本人の場合は2956年になる計算とのことで、つまり今から約650年後には韓国人がいなくなり、日本人も約1千年後には絶滅するという恐ろしい話だ。まさか計算どおりには行かないと思うが、それにしても、このまま進めば大変なことになりそう。

 同会議での三星経済研究所・崔先生の発表によれば韓国の出産率がOECD主要加盟国で最低の1・08人、日本も最下位グループの1・25人でOECD加盟国平均の1・6人を大きく下回っている。韓国は1970年には4・53人だったのでそのスピードも頭抜けて速い。

 私にはここで難しい議論を展開する能力はないが、少子化は相対的に高齢社会を招き、国家にも企業にも多大の影響を及ぼすだけでなく、将来、民族絶滅の危機を迎えるとするなら、その対策は国家の最優先課題といえよう。

 そう言えば私の周りの韓国の既婚者も子供が少ない。大半は1人で、2人以上は珍しい。当社の元社員のK氏などは、女の子が生まれたら早々にパイプカットしてしまった。「ちょっと早すぎるんでないの」と忠告したが、「当社の給与では仕方ない」と逆襲された。彼のように少子化の最大の理由は経済的負担といわれているが、必ずしもそうではない。ダブルインカムで経済的には余裕たっぷりの私の同僚女性は、「子育てはもう懲り懲り」。女性の価値観も変わってきている。

 子供の養育費が高い理由の一つは学歴社会に起因する。取引先の徐理事は子供2人を小学生時代から米国に留学させているが、奥さんも同行しているので、ソウルではチョンガー生活である。彼のように子供の英語教育のために外国留学させる家族が増えているが、父親は年に1~2回、妻子に会いに行くので渡り鳥に喩えて「キロギ・アッパ(渡り鳥お父さん)」といわれている。

 アッパとは韓国語で父親のこと。留学先は米国、カナダの他に豪州やニュージーランドに人気がある。外国だけに費用も半端ではないはずだが、徐社長によれば外国は相対的に物価が安いし、韓国にいても塾、塾の連続で総費用は大差ないとのこと。子供の将来のためとは言え、小さい頃から離れ離れに暮らす父親も子供も可哀想。妻子がカナダにいる金社長はかなり頻繁に行き来しているが、このようなリッチな父親を「トクスリ・アッパ(鷲お父さん)」という。鷲のようにいつでも飛んで行ける強い翼(力)を持っているということらしい。

 では小生のように、近くの日本に家族がいながら旅費の関係でほとんど帰れない親父をどう言うのか?との質問に、同僚のセレブ女性曰く「ペンギン・アッパ(ペンギンお父さん)」つまり、翼はあるが飛べない親父だと言われた。情ない親父だ。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。