米原万里さんの訃報を聞いてショックを受けたのは私だけではないと思う。ロシア語通訳、翻訳の第一人者であり、軽妙洒脱なエッセイで人気を博していた同氏の作品の中でも、「ロシアは今日も荒れ模様」に出てくるロシア小咄は何回読み返しても面白かった。ロシアの男たちは揃って底なしの大酒飲みらしい。「貴方!私とウオッカのどっちを取るの!」酔いどれ亭主に業を煮やした奥さんの詰問に対し、「その場合のウオッカは何本かね?」と酔眼で答える亭主。ゴルバチョフ大統領が節酒令を出したとき、ロシアの離婚率が急増した。原因は何十年かぶりにシラフで自分の奥さんを見てショックを受けたためらしい。単身赴任の私があまり日本に帰らない理由も実は 。
健康維持に「笑い」が特効薬というのは医学的にも立証されている。健康面だけでなく、人間関係でも「笑い」は格好の潤滑剤であり、仕事にも欠かせないが、総じて日韓両国ともユーモア・センスに長けているとは言えないのが残念だ。私も元々は真面目だけが取り柄の無味乾燥人間だったが、「笑いは成功の秘訣」との先輩の言葉に啓蒙されて、「笑うセールスマン」になるべくそれなりの努力をして来た。その結果、職場、家庭では「親父ギャグ」「だじゃれ親父」として煙たがられている。
ところで、当地に来て日本と韓国の「笑い」にはかなり差があると感じていたが、某誌の李正子氏のエッセイによると、韓国人の笑いのツボは①視聴覚による奇想天外さ、②ダジャレ、のどちらかだという。そういえば当地のお笑い番組にはドタバタ・バラエテイーとかコントによる瞬間芸が多い。
一方、日本の笑いにはかならず「オチ」が存在する。それも捻ったオチ。日本の代表的な笑いである落語、漫才、漫談などいずれの場合でも最後の「オチ」で勝負がつくが、さしずめ体操競技で最後に捻りをいれた着地と同じかもしれない。私も拙いエッセイながらいつもオチで苦労していて、オチがうまく決まらなかった時はどうにもオチつかない。
ところが最近は日本でもストレートな笑いが幅を利かしているような気がする。特に若いコメデイアンの芸はまさに視聴覚による奇抜さと言葉遊びのダジャレの連続。笑いも韓流ブームの影響だろうか。個人的には伊東四郎のようなとぼけた笑いが好みなんですが。
最後に各国の国民性がよく分かるジョークを一つ 。
タイタニック号が沈没の危機に瀕している時、救命ボート不足のため船長は嫌がる男性乗客に暗く冷たい海へ飛び込むよう説得した。「紳士的であれ」英国人が飛び込んだ。「ヒーローになれ」アメリカ人も勇敢に飛び込んだ。「これは規則」ドイツ人が無表情で続いた。「これはコンセンサス」躊躇していた日本人も身を投げた。「日本人に負けてなるものか」隣にいた韓国人が急いで後を追った。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。