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2006/06/16

<随筆>◇ヌルンジ粥の味◇ 桃山学院大学 徐 龍達 名誉教授

 古希をすぎてなお健康に恵まれている有難さをしみじみと感じる昨今のこと、桃山学院大学の定年退職後も、週一回は大学院の講義に出かけているが、韓国の啓明大学校から5年間の特任教授職を拝命、ときおり「特別講義」にも出かけている。

 去る4月は日本における「新会社法の制定について」、また「在日韓国人の地方参政権と日本の外国人政策」について、同大学校の経営大学と国際学大学で講演した。およそ一週間の滞在はあっという間にすぎ去り、会えない教授たちもいて心残りである。

 大邱市内の山腹を造成したキャンパスは約60万坪(198万平方㍍)、都心から延びた地下鉄の駅二つが大学に隣接して交通至便となった。学舎は年々拡充されており、観光施設にもなった李朝書院や博物館の所蔵品には目をみはるものがある。それにもまして、山間部と学舎に霧がたなびく自然の風情は、えもいわれぬ美しさで、しばらく我を忘れる。

 啓明大学校には世界各国からの留学生と地方からの下宿生がおよそ二千人いる。その幾棟もの寄宿舎の近くに外国人教授たちが泊まる国際会館がある。私たちの朝食は、それらの学生たちと同じ食堂でとることになっている。

 ある日の朝食はヌルンジ(おこげ)のお粥であった。数種のおかずと共にどんぶりに一杯のヌルンジ粥だ。わたしは植民地時代の古里・釜山で、母がつくってくれた芳ばしいヌルンジのおにぎりを思い出した。同時に大きな鉄釜のおこげに水を加えて炊いたヌルンジ粥は、食後のお茶代わりにいただいたが、それはお米の不足時代の名残であったのかもしれない。

 だが今日のお粥はちがう。食堂のハルモニに聞いたところ、幾種類もの豆類をミキサーで砕き、市販のヌルンジに加えて炊いた栄養豊富なお粥だという。ヌルンジをつくる器械が市販されていることも、わたしにとっては新しい発見であった。その器械に一定のお米と水を入れてスイッチを入れれば、自動炊飯器のようにヌルンジができるのだという。その翌日、親しい教授たちの案内で、大学近くのレストラン「富泉」で、本格的なヌルンジ定食をいただいて堪能したものである。

 お粥は韓朝鮮料理にとって重要な一部分を占める。お米に肉、魚介、野菜、豆類や穀物などを炊き合わせたお粥やおもゆなどの種類は豊富だ。それらは離乳食、補食、老人食、病人食としても欠かせない。

 お粥にまつわる想いでのひとつは、1968年3月に、桃山学院徐ゼミナールの学生を引率して韓国旅行をした時のこと。学生二人が食あたりか下痢をして大変困ったことがある。だが、あわびのお粥ですっかり良くなったことは今も忘れえない。

 この韓国旅行が前例となって韓国歴史文化セミナーが始まった。桃山学院大学と啓明大学校との国際交流、姉妹締結が実現し、およそ30年に及ぶ韓日大学交流史の先駆となったことは特筆してよいのではないか。


  ソ・ヨンダル 1933年韓国釜山生まれ。現在、桃山学院大学名誉教授、在日韓国奨学会理事長、「大学教員懇」代表、「国際韓朝研」名誉会長など。