最近、たまたま知人の息子で大学生であるK君から手紙をもらった。今時、手紙で自分の悩みを書いてよこす若者も珍しいので、まず、そのことに感心しながら手紙を読んだ。私信だからその内容をみな紹介できないが、一言でいえば、人生いかに生きるべきかに始まり、思想上の問題から世界情勢に至るまで、自分の考えを述べた上で、私の意見を求めるものであった。
今は昔とちがって、多くの在日が幾多の悪条件を乗り越えて日本の各方面で成功をおさめている。今後、実力のある在日の若者は、世界の舞台に積極的に進出して活躍することが予想される。私はK君などもそうした一人になることを期待している。
ところで、K君へどのような返事を書くべきかで当惑した。私は本来浅学菲才で、他人に教訓めいた話をする資格などないからだ。仕方なく、日ごろから若者たちに対して思っていることを率直に書くことにした。以下はその返書の要旨である。
拝復 K君、久しぶりに内容の濃いお手紙を読みました。あなたの世界を見る観点や人生に対する真摯な思索のあとがうかがえて、頼もしく思いました。けれども私たちの間には世代間のギャップが存在することを改めて感じました。そこで今日、難しい哲学や思想上の問題は別の機会にゆずって、ごく一般的な次の三つのことを述べるに留めたい。
まず、若者よ旅をせよ!と言いたい。人生を豊富にするために旅に出て、世の中の見聞を広めることはとても大事なことだ。未知なるものへの憧憬と、大自然にふれることによってより人間への敬虔の念が深まる。旅で得た体験、知識は、将来計り知れないものをきっとあなたに齎らすに違いない。そのためには少々の苦労、冒険は厭わないことだ。なおかつ、友人との出会いや、恋人に巡り会えるという素晴らしい可能性だって否定できないのだから。
次いで、これも月並みな言葉であるが、若者よ大いに本を読み、読書に親しむことを勧めたい。最近の読書離れの世相は嘆かわしい。先人たちの残した古典をはじめ、歴史の記録、すべての学問と知識は書籍の中にある。したがって教養ある人間形成に読書は欠かせないのは言うまでもない。
今やパソコンの時代であること、また、その効用を否定するものではないが、ただ、テレビにかじりつき、ケイタイに夢中になるだけの人生も浅薄に思える。ぜひ読書する習慣を身に付けたいものである。
三番目に、若者よ大いに恋をせよ!と訴えたい。「人生に恋なくして何の潤いぞある」という言葉もある。好きな異性が現れたら躊躇せず気持ちを相手に伝えられよ。私は「君に勧む すべからく惜しむべし 少年のとき」という漢詩の「花開いて折るに耐えなば直ちにすべからく折るべし、花無きを待って空しく枝を折るなかれ」という詩句がとても好きだ。
では後日、この続きを書くことを約束して、アンニョンヒ。
チェ・ソギ 在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『黄色い蟹 崔碩義作品集』(新幹社刊)などがある。