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2006/01/01

<随筆>◇犬と猫と宝の珠(たま)◇ 金 基英さん

 イェンナルイェンナレ(むかし昔)。ある小さな漁村にお婆さんが住んでいました。心やさしいお婆さんには、家族がなく、犬と猫を一匹ずつ子供のように可愛がっていました。それと、このお婆さんには、どこで手に入れたのか、いつからそれを持っていたのかも覚えていない、それはそれは大変きれいな、光り輝く珠(たま)がありました。

 この珠は、願いを叶えてくれる不思議な珠だったのです。お婆さんは自慢の珠を毎日毎日、きれいに磨いては眺め、満足してまた大事に箪笥の中にしまっていました。その珠は磨けば磨くほど光る、ほんとうに素晴らしい珠でした。村のみんなに珠の自慢をしましたが、だれにも見せたり、触らせたりはしませんでした。

 ある日、うわさを聞いて、遠くから物売りの婆さんが訪ねて来ました。この婆さんは、人が持っている珍しい物はみんな手に入れたいと思う強欲な人でした。欲深い婆さんは、やさしい声で作り話の自分の身上話をし、いろいろ新しい物を見せて、いつの間にか、お婆さんに近づきました。人の良いお婆さんは何の疑いも持たず、物売りの婆さんにすっかり気を許してしまいました。

 「素晴らしい宝物を持っているとうわさで聞いたけど、それはどんなものなの?」

 物売りはこう言いながらお婆さんに珠を見せてくれるよう頼みました。物売りを信じてしまったお婆さんは、あの大事な珠を取り出し、見せてあげました。

 「なんて美しい輝きなんでしょう」。物売りの婆さんはのどから手が出るほど欲しくなり、まじまじと珠を見つめています。お婆さんは、「もうしまわないと」と言って、あわてて箪笥の中にしまいました。

 「悔しいけど、きょうはここまでだ」。そう思った物売りは、家に帰っていろいろ策をめぐらし、さっき見てきたあの珠の偽物を作ることにしました。本物そっくりの珠を作り、お婆さんの家にもう一度取って返しました。

 「お婆さん、さっきの珠があんまり素晴らしかったので、もう一度見せてくれませんか?」

 お婆さんは、箪笥の中から珠をとり出し見せてやりました。

 「なんて素晴らしいんだろう。一回だけでいいから、ちょっと触らせておくれ」

 しつこくせがむ物売り婆さんに、ちょっとだけならとつい気を許し、珠を触らせてしまいました。欲張り婆さんは、自分が持って来た偽物とさっとすり替え、礼もそこそこに帰っていきました。

 何も気付かないお婆さんが、いつものように珠を取り出して磨こうとすると、珠はくすんでいます。いくら磨いても珠は光らず、やっと騙されたことに気付き、悲しくて、悲しくて、とうとうお婆さんは寝込んでしまいました。取り戻すにも、物売りがどこから来たのかさえ、わかりません。

 途方に暮れ、悲しむお婆さんの姿を見て、犬と猫は、あの珠を取り戻そうと決意し、欲張り婆さんの家をあちこち探し歩きました。猫が野良ねずみを捕まえてきて、ようやく家を突き止めました。海を越え、欲張り婆さんの家を探り当てると、犬と猫はこっそり忍び込んで珠を取り返すことに成功しました。

 犬が口に珠をくわえ、泳げない猫を背中に乗せ、海を渡ろうとした時です。猫が聞きました。「ワン君、珠はちゃんと無事に持っているだろうね」。「うん」とうなずいても、猫が何回も聞くので、犬は「ワン」と吠えてしまいました。その途端、大事な珠は海の中に落ちてしまいました。慌てて背中の猫を下ろし、珠を捜しましたが見つかりません。肩を落とした犬がしょんぼり家に戻ってみると、猫がお婆さんの側で得意そうに笑っているではありませんか。猫は珠が落ちるのをちゃんと見ていて、こっそり持って来たのでした。お婆さんはたいそう喜び、猫を大切にしました。それ以来、猫は家の中で、犬は家の外で飼われるようになったとか――。クッ(おしまい)。


  キム・キヨン 1962年、仁川市生まれ。日本人の夫と結婚し来日。千葉県船橋市在住。船橋市国際交流協会常任理事。船橋市外国人相談窓口親善ボランティアとして活躍。韓国民話の語り部として日本各地で公演中。