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2007/12/21

<随筆>◇ブルー・クリスマス◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 「ヌニワヨー(雪ですよー)」

 小雨降る肌寒い夜、友人と居酒屋で一杯やっていると携帯電話にミス・リーからメッセージが入って来た。慌てて窓の外を見ると、いつの間にか雨が雪に変わっていた。白い妖精がヒラヒラと舞っていた。やけに冷えると思ったら初雪か…、今夜は積もるかも知れないな。「コマウォヨ(ありがとう)」。ミス・リーに返信しながら、なぜか無性に嬉しくなって来た。

 「今夜は雪見酒だ。大将、熱燗もう1本。それにおでん追加!」。雪国育ちの私には寒いわりに雪が少ないソウルの冬は物足りない。それだけに雪を見るとホッとする。母親の温もりを感じる。遠い昔がよみがえってくる。

 しばし雪見酒を楽しんだ後、メッセージのお返しにミス・リーの勤める近くのスナックに向かった。通りはきらびやかなイルミネーションで飾られており、早くもクリスマス気分である。私の会社の横にある「清渓川」はひと際、華やかなイルミネーションで市内の名所になっているが、ただ今年は例年よりちょっとおとなしい気がする。市内の大通りも心なしか控えめだ。異常な原油高の影響に違いない。

 それに今年は赤や黄色の鮮やかな色合いとは違って、しっとりとしたブルーが目立っている。秘密は特殊LED(発光ダイオード)。最尖端技術だがこれだと電気代が格安でまさに省エネにうってつけ。某大手百貨店などはフランスからアイスホワイト色のLED照明30万個を取り寄せて、ビル全体が青白く幻想的に浮かび上がっている。リオン聖堂を模しているという。設備費は安くないが、30万個の電気代は1日5時間使ってたったの3万ウォン。某ホテルは100万個を1日10時間使って12万7000ウォンに過ぎない。

 照明デザイン会社によれば「クリスマスは赤と言う陳腐な考えはなくなり、今やクールで知性的な感じのブルーの時代」とのこと。テロや地球温暖化に加え物価高、金融不安と問題が多く、国民の気分もちょっぴりブルーな今年はブルー・クリスマスが似合うのかも。

 ミス・リーに会うのは久しぶりだ。

 「ト、イエッポジョンネ(また綺麗になったね)」

 「アイゴ、アイゴ」。機嫌のいい時の彼女は“アイゴ”を2回繰り返す。

 「メクチュ、チュセヨ(ビール頂戴)」「ハイー」。

 片言の日本語で語尾を可愛く伸ばすのも機嫌のいい証拠だ。

 ビールを運んできた彼女の白い手に無数の傷がついている。彼女は韓国では珍しく無類の猫好きだが、最近生まれた子猫に引っかかれたとのこと。

 「プルサンヘ(可愛そう)」とか言いながら彼女の手に触ろうとしたら、「アンデ(ダメ)」。彼女の長い爪が子猫のように私に向かってきた。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。