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2007/11/30

<随筆>◇靴磨き姜ちゃん ラクラク金さん◇                                                      韓国ヤクルト共同代表副社長代行 田口 亮一 氏

 さて皆さん、今日の題を見て「ハハァ」と私が言わんとすることを推測できる方はほとんどいらっしゃらないと思いますが、ソウル在住の方で特に東部二村洞周辺にお住まいの方は“ラクラクサービスの金さん”の名前はご存知の方もおられる事と思います。

 先ずはクドゥタッキ(靴磨き)の姜ちゃん。彼はうちの会社のビルも含めてこの周辺のビル数軒を縄張りにしている靴磨きの青年です。原則として一週間に月・水・金に来て1足ずつ靴を磨いて毎月2万ウォンの代金を徴収していきます。いつも靴墨ですすけた黒い顔をして「アニハセヨッ」と元気に声を掛けて行くのですが、ここんところ少し元気がないように見えます。

 「ヨセ、オトケテッソヨ?(このごろどうしたん?)」と聞いてみたところ、細い目を悲しそうに瞬かせながら「チャル アンデンネヨー(うまくいかないのでさぁー)」。「モガヨ?(何が?)」と聞いてみますと、詳しくはわかりませんが、この商売にも当局の規則らしきものがあり、2億ウォン以上の儲けがあった人にはなかなか続けさせてくれないとのこと。「キッ、キミが2億ウォンの金持ちなのッ?」と私は不覚にも椅子からずり落ちてしまいました。毎日、毎日(雨の日は除く)靴を磨きつづけて2億ウォン以上も貯めたクドゥタッキ姜ちゃん。フルリュンハムニダーッ!(ご立派だ!)
  
 この姜ちゃんからの連想で懐かしく思い出されるのが、今はラクラクサービスの社長となった目玉の金さんです。会社が商工会議所会館にあったころだからポルソ(かれこれ)20年前。どこからか届いた1枚のチラシに「日本語ビデオ宅配サービス」。日本の映画、TVドラマ、洋画のプログラムがびっしり。この着想は抜群のもので私もすっかり感激、大タンゴル(おとくい)になりました。

 当時の金さんは夏はランニングに短パンでオートバイをブッ飛ばし、雨の日はダブダブの雨合羽に長靴、冬は寒風吹きすさぶ中を顔を真っ赤にして律儀にビデオを届けてくれました。そしていつでも彼の大きく真ん丸い目には「テガテミョン(今に見てろっ)」と言っているような迫力がありました。金さんのビデオ稼業も今は昔の話で、今や東部二村洞に立派な事務所を構える堂々たる社長さん。オートバイを高級乗用車に乗り代える程の大成功ぶりです。フルリュンハムニダーッ!

 日本でのホリエモン騒動、村上ナニガシのインサイダー事件、韓国では話題騒然のBBK問題などなど、頭の良さと小手先の器用さ、小賢しさを振り回し、額に汗することを忘れた地に足のついていない輩が増える一方のこのごろ、私はクドゥタッキ姜ちゃんとラクラク金さんの姿に、「やったね!」と心からの賞賛の声を送りたいのです。こういう人たちが大統領になってくれるとかなり良いと思うんだけどナァ。


  たぐち・りょういち 1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。