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2007/11/02

<随筆>◇白頭山は今日も晴れだった◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 中朝国境の白頭山に行ってきた。中国経由だったから「長白山」というべきか。しかし日本では昔から韓国(朝鮮)風に白頭山といっている。日本が以前、朝鮮半島を支配したことからくる名残だろうか。今回は名前にこだわりながらの旅だった。

 「白頭山か長白山か」で以前から気になっていたことがある。在日朝鮮総連が羽振りがよかったころ、日本でしきりに歌っていた「金日成将軍の歌」のことだ。あの歌の出だしは「長白山…」となっている。金日成は旧満州居住時代、中国共産党の抗日運動に加わっていたというから中国風になっているのだろうが、コリアサイドの歌で「長白山」と歌われているのは、正直(?)で面白い。

 白頭山は朝鮮民族(あるいは韓民族)の霊山としてあがめられてきたという。しかし中国側の満州族にとっても民族的霊山だったという。したがってあの山が歴史的にコリアンだけの“占有物”だったというわけにはいかない。だから現在の中国が「長白山」の開発、利用に力を入れているからといって、ケシカランということには必ずしもならない。

 今回は七年ぶり三回目の旅行だったが、ふもとの延辺朝鮮族自治州を含めこれまでになく「白頭山」の名称が後退し「長白山」になっていた。朝鮮族自治州の“中国化”というか“漢族化”が進んでいるのだ。ふもとの街・二道白河には漢族の金持ちを目当てにしたものだろうか、ヨーロッパ風のカッコいいリゾートタウンまでできていた。

 中国政府は山の西側の「松江河鎮」に新しい空港を建設中で、来年夏にはオープンとか。白頭山観光ルートのうち朝鮮族自治州を経由しない西側の「西坡ルート」の開発、拡充だが、これができると「白頭山の中国化」はますます進むだろう。

 現在の白頭山観光は、朝鮮族自治州の延吉経由だと山まで往復八百㌔、十時間のバス旅行でいささかしんどい。新空港ができると時間的に大幅な短縮となるので、遠回りの延吉経由の「北坡ルート」は利用しなくなるに違いない。

 今回の白頭山旅行は南北首脳会談の直後だった。首脳会談では北朝鮮経由の白頭山観光を実現させるため、ソウル・白頭山空路を開設するという。しかしそうなると、中国経由で、しかも朝鮮族自治州経由で白頭山に出かける韓国人はほとんどいなくなるだろう。

 かくして中国サイドではますます「白頭山」は後退し「長白山」になってしまう。延辺朝鮮族自治州の人口構成も、今や朝鮮族は三〇%台で、これを切ると自治州の資格がなくなるという。

 久しぶりに出かけた白頭山だったが、今回も頂上は大快晴で湖・天池の神秘的な全景を十分におがめた。これで「三勝無敗」だ。ツアーガイドからは「先生の運のよさは奇跡に近い。きっと日ごろの行いが大変いいからでしょう」としきりにほめられた。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。