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2007/09/28

<随筆>◇トロット(演歌)消滅◇ 千秋企画 金 好植(岡宏)社長

 時代の流れを象徴する様に、韓国歌謡のトロットは絶滅の危機にあります。88年のオリンピック以前、離散家族の問題でマスコミを賑わしている頃までがトロットの終焉間近でした。日本の演歌も同じ運命を辿っているのですが、韓国のスピードは日本の比ではなく、とてつもなく早く消滅に近づいています。

 世の中の総てがスピードを求める様になり、2拍子や4拍子のリズムでは到底生活のリズムに合わなくなってしまったのが原因でしょう。韓国の民謡も久しく聴かなくなりました。日本の民謡はほとんど2拍子、韓国の民謡は3拍子、どちらも生活の中から生まれてきた歌なのに現代の生活リズムではこれもマッチしないということです。

 2拍子のソーラン節が8拍子、16拍子というアップテンポでソーランおどりとしてからくも若者に受け入れられていますが、同じく阿波踊りが生きのびているのもテンポの良さが現代生活にマッチしているからではないでしょうか。サムルノリは現代的なリズムを取り入れたビートの早さ強さを加味することによって若い人にも受け入れられたのでしょう。ナンタが一時ブームになったのも、同じ理由でリズムの軽快さからかも知れません。

 トロット消滅の大きな原因は金蓮子により始まったメドレー歌謡にもあります。従来の歌謡曲を8拍子、16拍子の軽快なリズムで歌い継いだものですが、これがヒットするや韓国の歌手はこぞってこのブームに乗りました。総ての歌手がです。このブームの大きな功績のひとつに古い歌謡曲を生き返らせたことがあります。そしてオリジナルを唄った古い歌手達もスポットライトを再び浴びる様になったことです。しかしオリジナルの歌手達は2拍子、4拍子の世界から抜け出すことが出来ない内に自然消滅してしまったのです。

 現在韓国の一線で活躍するスーパースターの演歌歌手達は総てディスコ歌手になってしまいました。バックのコーラスがガンガンと大声でがなる中で、無理にリズムに乗ろうとしているおじさん歌手やおばさん歌手が若いダンサーに混じって歌っている姿は滑稽としかいいようがありません。よく息が切れないなと思って見ていると口パクだったりするのですから最悪です。

 年相応の歌で聴く人達を感動させる時代は終ってしまったのでしょうか。作る側に能力が無いのでしょうか。韓国のトロットは韓国の財産なのです。大事にしなくてはいけないと思うし、もったいないとは思いませんか。古き良き時代を懐かしむのは年老いた証拠ですが、あのビートについていけないのも現状です。ああ青春時代はどこにいってしまったのでしょう。自然に身体がリズムをとり始めました。やったあ!青春時代が甦ったか?いや、貧乏ゆすりでした。お粗末でした。


  キム・ホシク 1941年東京生まれ。日本大学芸術学部卒。クリアトーンズ・オーケストラを結成し名指揮者ぶりを発揮。韓日文化交流の貢献に対して韓国政府より文化功労賞を授与。在日韓国人文化芸術協会会長。(株)千秋企画社長。