久しぶりにテレビで韓国映画「残された家」と韓国ドラマ「春のワルツ」を観た。昨年11月のことだ。全くの偶然なのだがBS2で連続して放映したのであった。相変わらずの甘いマスクとタイミングのよい音楽は韓国バージョンの最も得意とするところだろう。それはそれで素晴らしいと見とれるのだが、そんな中、軽トラックが登場したのにはまさかと目を疑った。大きなもの好きな韓国で、しかも映像の世界に軽トラックを登場させるなんて、とても信じられないのだ。
10年前のソウルに軽トラックがあったかどうか今にしてみると定かではないが、やはりなかったような気がしてならない。当時の韓国の一番の超ブランドはグレンジャーであって、それは全ての韓国製品のトップであった。自動車に限定すればグレンジャーの次はソナタだった。好景気が進むにつれ排気量は2000㏄が2500㏄に、3000㏄は3500㏄にどんどん格上げされるといった按配だった。
660㏄程度の軽トラックの出る幕なんか全くなかったろう。韓国で軽トラックを生産しているなんて聞いたこともなかったし、日本からの輸入は許可されていなかった筈だ。
「残された家」の軽トラックはトラックそのもので登場、クライマックスは運転席と助手席の行ったり来たりの大写しであった。「春のワルツ」は連続ものの一場面だから、どのくらい登場したか分からないがピンクのかわいい宅急便のようだ。
家庭菜園を趣味とする私は軽トラックの愛好者である。肥料の鶏糞や苦土石灰の臭いを運転席に持ち込まずに運んだり、草刈機や柄の鋤なども簡単に乗せられるからだ。軽トラックで走っていると人間が謙虚になる。自分のスピードが自ずと制限され、たまに高速道路を走り他の車がどんどん抜いたって全く気にならない。のんびり走る心の豊かさを味わえるからだ。
テレビの軽トラックも、のたのたと田舎道を走った。済州島を走る姿はなぜか絵になっていた。ピンクの宅急便もごく自然体であってわざわざ軽トラックを持ってきたというものはなさそうだ。ずっと以前から当然存在したかのごとくソウル市街に溶け込んで見えた。もしかして軽トラックばかりでなく軽自動車も走っているのだろうか。あのバスで混雑するソウル市内を軽自動車がそれにまぎれて走る図はとても想像できなかった。
韓国映画をそれほど多く見ているわけではないから、何だかんだという資格はないが、この2つの映画を見る限り軽トラックが登場していた。これは自分にとってかなりの驚きであった。ところが去年から今年にかけて1万ウォン紙幣や5000ウォン紙幣などが新しく発行され、しかも以前より小さくなったという。あまりお目にかからない10ウォン貨幣も前より小粒になって新登場したと聞いた。
2つの映像の中に奇しくも軽トラックが出てきたり、紙幣や貨幣の小型化を聞くと韓国社会に小型化という大きな変化があったに違いない。これって一寸考え過ぎですかね。
たけむら・かずひこ 1938年東京生まれ。94年3月からソウル駐在、コーロン油化副社長などを歴任。98年4月帰国。日本石油洗剤取締役、タイタン石油化学(マレーシア)技術顧問を歴任。茨城県鹿島市在住。