ここから本文です

2007/01/19

<随筆>◇黄金の豚(ファングムデジ)◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 当地では今、「黄金の豚(ファングムデジ)」が脚光を浴びている。店頭には金ピカの豚が勢ぞろい。実は今年の干支の「豚」(韓国では猪ではなく豚)が普通の豚ではなく600年に1回の「黄金の豚」にあたるので、この年に生まれた者は財運に恵まれるとの説が横行し、主婦、産婦人科病院をはじめ、ベビー用品関連業界が恩恵にあやかろうと色めき立っているのだ。

 特に「黄金の豚ベビー第1号」競争は熾烈だったようだが、結局、江南車病院で1月1日午前0時きっかりに帝王切開で生まれた李某さんの女の赤ちゃんが名誉ある第1号に認定された…と思いきや、安東病院でも金某さんが同時刻に帝王切開で男児出生、さらに1秒遅れで申某さんの男児が自然分娩で誕生した第一病院が「帝王切開は時間を調節できるので資格がない」と申し出るなど混乱を極めたが、公式競技ではないので各々の病院がホームページで「こちらが本当の第1号」と発表している由。

 ところで今年は本当に600年に1回の「黄金の豚」年なのかどうか?ある新聞に寄れば亥(豚)年は乙亥、丁亥、己亥、辛亥、癸亥とあり、各々60年に1回来るが今年はそのうちの丁亥(赤い豚)にすぎないとのことなるも、別の新聞ではこれに陰陽五行を考慮すれば600年に1回の「黄金の豚」にあたるとある。

 当社の年男・C氏は「今年ではなくて小生が生まれた1959年が600年に1度の黄金の豚」と息巻くなど真相は藪の中だが、これだけ騒ぐのも韓国では豚が大変縁起のいい動物と見られているからだ。開業や引越しをすると茹でたブタの頭を備えて商売繁盛を祈念するし、豚の夢は最高と言われている。

 「なぜ豚は縁起がいいの?」。小生の質問に対する当社の長老の回答は「豚はドンと発音するが(日本語と似ている)、お金もドンと発音する」。なるほどお金に絡んでいたか。ちょっと胡散臭いな。さらに長老曰く「糞(トン)も発音がドンに近いので現物はともかく夢では歓迎されている」。今度は匂って来た。

 少子化対策に頭を悩ませている政府にとっても、時ならぬベビーブームは大歓迎だ。2000年のミレニアムの時もベビーブームで熱かったが、早いもので「ミレニアムベビー」が今年から小学生。ただ、年々入学児童が減少していた学校側からは受け入れが間に合わないという嬉しい(?)悲鳴が出ている。今年の入学児童は昨年に比べ2万3000人増となるが来年は逆に8万人減となるので設備拡張も難しい。

 さらにミレニアムベビーの両親は時ならぬ「入学戦争」に頭を抱えている。学閥社会の韓国では小学校から競争が始まるが、受験戦争は就職まで続くので深刻だ。入学の1年先延ばしを考えている母親もいるという。昨年末に済州島に夫婦で旅行した知人にこの話をしたら困惑していた。「アイゴー。折角仕込んだのに」


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。