イエンナレ、イエンナレ(むかし、むかし)、虎がたばこを吸っていたころ、ある村に金持ちで家柄の良い家がありました。その家に結婚適齢期を迎えた一人息子がいました。
その息子は、「オデドグザ」でした。オデドグザというのは、5代続いた家の男の子のことです。むかし、韓国では、男の子を尊び、男の子が生まれると、大変かわいがりました。まして5代続いた家の一人息子ですから、それはもう大切に育てました。
このため、男の子は甘えん坊で、判断力のない子になってしまいました。両班(ヤンバン=貴族階級)の男の子は、本を読んで学問をし、代々続く家を守る大事な役目を果たさなければなりません。特に、しっかりした嫁をとり、子孫を絶やさないことが何よりも大切です。
「この子の嫁は賢くないと家が終わりになってしまう。何かむずかしい問題を出して、それを解いた娘を嫁にしよう」
そう考えて、父親は張り紙を出すことにしました。まず、村中にいろんなうわさを立てました。そして、張り紙に「どんな娘でもいい。両班でなくてもいい。サルハンマル(コメ一斗)を自分と二人の召使いとで3カ月もたせることのできる娘を息子の嫁に迎えよう」と書きました。
そうしたところ、村の娘たちが、たくさん集まってきました。しかし、一人で食べてもコメ一斗は3カ月もちません。それを3人で食べて、3カ月ももたせなければならないのです。ある娘は、自分ばかり食べて召使いには何も与えませんでした。別の娘は、お粥を炊いて、少しずつ食べていましたが、とうてい3カ月もたせることができず、みんな失敗に終わりました。これらは、みな両班の娘でした。
となり村に貧しい農家の娘がおりました。ある日、嫁探しの話を聞いた娘は、両班の家にやってきました。そして、自信たっぷりにこう言いました。
「わたしにまかせてください」
その娘は、まず、ご飯をいっぱい炊きました。そして、男の召使いにも、女の召使いにも腹いっぱい食べさせました。これではコメがすぐなくなってしまいます。心配した召使いたちは、「こんなに食べて、これからどうするんですか」と聞きました。
娘は、「さあ、お腹がいっぱいになったなら、仕事をしましょう。たくさん働きましょうね」と言うと、女の召使いに「山菜をとってきてちょうだい」と頼みました。男の召使いには、「山へ行って薪を集めて来てください」と言いつけ、さらに「とってきた山菜と薪を市場で売って、そのカネでコメを買ってください」と命じました。
山でとってきた山菜と薪を売ってはコメを買い、売ってはコメを買い、3カ月がたつと、コメは何俵も積んでおくほどに増えました。
それを見て両班の父親は、「息子の嫁にふさわしいのは、この娘だ」と感激し、貧しい農家の娘を一人息子の嫁にすることに決めました。この娘は、土地を借りてコメを作っている小作人の娘で、それはそれは貧しい家でしたが、賢いトンチのおかげで身分など関係なく、両班の嫁になることができました。そして両班の家も栄え、夫婦楽しく暮らしたそうです。賢いお嫁さんのおかげで、弱々しかった一人息子もたくましくなったそうな。めでたし、めでたし。クッ(おしまし)。
キム・キヨン 1962年仁川市生まれ。日本人と結婚して来日。千葉県船橋市在住。船橋市国際交流協会常任理事。船橋市外国人相談窓口親善ボランティア。韓国民話の語り部として日本各地で公演中。