最近の国際金融不安は、韓国社会に悲喜こもごもの現象をもたらしている。とくに株価とウォンの暴落は家庭にも大きな影響を与えている。
たとえば子供を海外留学に出しているところでは、ドル送金が大変で泣いている。日本に留学生を出しているところだと、円価が一時の二倍近くにもなり、もっと大変だ。もっとも、ぼくら日本人は逆にうれしいが。円高・ウォン安で日本人観光客急増という話もある。
一方、株価の暴落は家庭に不和をもたらしている。近年、韓国社会で流行していたファンド投資が、国際的な株価暴落でアウトになってしまったからだ。高収益につられ、われもわれもとファンド投資をやっていたのが、ここにきてみんな大損になってしまった。
その結果、たとえばお互いないしょでファンド投資をやっていた夫婦が共倒れし、深刻な夫婦ゲンカに発展したとか、お父さんやお母さんの老後資金を預かってファンド投資していた息子や娘が、大損して親子の仲が悪くなったとか。ぼくの周辺でもよくそんな話を耳にする。“投資”はリスクと裏表だから仕方がないが、普通の人びとにはマネーゲームはやはり危い。伝統的な庶民の“私設金融”だった頼母子講の“契”でも、金の持ち逃げや食い逃げをするヤツがいて、泣かされるケースが昔からよくあったと聞く。
韓国ではアパート(日本でいうマンション)の転売もマネーゲームの手段になっていたが、これも金融不安で「転がらない」ようになってしまった。不動産の冷え込みも、多くの家庭に不安と不和をもたらしている。
投資のような危いマネーゲームのほか、いわゆる預貯金もふくめた利益目あての資産管理や運営のことを、韓国でも「財テク(ジェテク)」と称している。日本製の経済用語をそのままいただいたもので、マスコミを通じて韓国社会に定着して久しい。
「ジェテクねえ 」。こんな和洋折中の妙な日本語の新造語まで直輸入しなくてもいいのに、と思っていたらいつの間にか韓国でもなじみの言葉なってしまった。マネーゲーム流行のせいだろうか。マネーゲームは本来、韓国語では「トンノリ(お金遊び)」だろうが、この時代に「ノリ(遊び)」ではカッコ悪いと、カッコ良く「ジェテク」となったのだろう。しかしそこまで日本直輸入されると、日本人は逆に落ち着かないですねえ。
近年、ぼくが注目している言葉に「介護」がある。この日本語が韓国にどのように輸入されるか。韓国社会のトレンドとして最重要課題の「高齢化」にこの言葉は欠かせない。まさかそのままハングル読みして「ケホ」というのだろうか。
最近、知ったのだが「介護」のことを純韓国語で「スバル」といっている。これは実にスバらしい。ぜひ辞書を引いて調べてみてください。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。