今年もいつの間にか夏の暑い季節が到来した。私は連日の猛暑にすっかりバテ気味で、こういうときは山や海に避暑に出かけるのも一つの方法だが、私はそれも何となく面倒で、家の中で引っくり返って、唯ひたすら耐えている。
80年代に私はリュックサック一つで、韓国各地をやたらに歩き回った時期があるが、そのときに見聞した韓国の南の海に浮かぶ島の美しさと、島人の素朴さが忘れられない。なかでも強く印象に残るのは、全羅南道、高興半島(コフンバンド)の突端にある小島、小鹿島(ソロクト)の優美な風景と、莞島郡薪智島(ワンドグンシンジド)の所謂「明沙十里(ミョンサシムニ)」と呼ばれる海水浴場である。ところで、夏の風物詩といえば海水浴もその一つに数えられるが、子供の頃に海水浴に行ったときの思い出ほど楽しく、懐かしいものはない。そこで今日は「明沙十里」の話などを取り上げてみたい。
もっとも「明沙十里」といえば、北朝鮮の元山(ウォンサン)の近くにある「明沙十里」がその元祖であり、昔から風光明媚な海水浴場の代名詞として使われてきた。「明沙十里」には次のような民謡まで伝わる。
明沙十里、海棠の花よ 花が散るとて、悲しむでない
冬去りなば、春また遠からじ―――
それに、「明沙十里」という同じ名前の海水浴場が全国的にかなりあって、韓国だけでも4、5箇所は下らない。なかでも最も評判が高いのが、莞島郡の薪智島にある「明沙十里」なのである。その薪智島を初めて訪ねて行った時は、莞島の港から更にフェリーに乗り換えて行ったものだ(今は近代的な橋が架かっている)。さて、「明沙十里」の入り口に立って見渡すと、白い砂浜が延々と続き、緑の松並木に、ブルーの海の色がとても美しく、絵に描いたようなこの海水浴場の景観に私は忽ち心奪われたのである。しかも別名「鳴沙十里(ミョンサシムリ)」とも呼ばれていて、海岸の砂が波に洗われる時に妙なる音を発するという。真夏の怪談のように聞こえるかも知れないが、これも自然現象なのだ。そんなことから例えば、夏のシーズンになると芋を洗うような釜山の「海雲台(ヘウンデ)海水浴場」などと比べると、ここは、まさに「月とスッポン」ほどの違いがある別天地だといってもいい。
さて、韓国には有人、無人合わせて2千5百余の島があるといわれるが、やはり多島海(タドヘ)海上国立公園に属する島が美しい。私は別に自慢するわけではないが、かつて旅したことのある島の名を次に挙げておく。巨文島(コムンド)と白島(ペクト)群島(とくに白島は、絵葉書になるような美しい島で2012年の麗水(ヨス)万博では脚光を浴びることが予想される)、羅老島(ナノド・最近、韓国宇宙センターができた)、青山島(チョンサンド・映画「西便制」のロケ地)、観梅島(クヮンメド・エメラルド色の海水で有名)、黒山島(フクサンド・李朝末期、丁若銓/チョン・ヤクチョンの流刑地として知られる)。
最後に、韓国も観光資源の乱開発などをせず、美しい自然環境を後世に伝えて行くべきだと切に思うのである。
チェ・ソギ 作家。在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『韓国歴史紀行』(影書房)などがある。