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2008/04/18

<随筆>◇賄賂の話◇ 崔 碩義 氏

 中国数千年の歴史は賄賂の歴史でもあるといわれる。なかでも前漢の元帝の宮女であった王昭君は、似顔絵師に賄賂を贈らなかったために醜い女性として描かれ、匈奴の呼韓邪単于に嫁ぐ羽目になった故事は有名。朝鮮も賄賂大国である中国の影響をもろに受けて、貪官汚吏にまつわる話が結構多い。その代表例を幾つか挙げてみよう。

 李朝末期の研究では不可欠の文献であるといわれる黄玹の『梅泉野録』(巻一)に、李容直の如きは金百万両で慶尚道観察使(地方長官)の官職を政府から買い、任地に到着するや、ほしいままに略奪し、一年もたたないうちに一道の財産をことごとく奪ったと記されている。これでは一般良民はたまったものではない。官職を売った王朝政府はなおさら悪い。もちろん清廉潔白な「清白吏」と呼ばれる人物もいたらしいが、それはごく少数に過ぎない。

 こうした悪しき伝統のようなものが、残念ながら現代韓国にも形を変えて続いている。とくに全斗煥、盧泰愚という歴代大統領が揃って不正蓄財の罪で逮捕され、有罪判決を受けたことは記憶に新しい。少なくとも一国の大統領ともあろう者が汚職をするとは、何とも情けない話ではないか。全斗煥は身の置き所がなくて、一時、雪岳山の百潭寺に逃避して謹慎生活を送るという生き恥をさらした。

 また最近では、次のような目新しいスキャンダルが報じられて多くの人たちを歎息させた。

  ――韓国政府の副首相級の高官で身辺が比較的に清潔だと噂されていた人物の家に、ある日泥棒が入った。一旦は被害はなかったとマスコミに報じられたが、実際はかなりの被害に遭っていた。警察に正直に申告することが憚られる事情があったのである。後日、運悪くその泥棒が捕まった。運が悪かったのは、むしろ高官の方であったというべきだろう。泥棒氏の自白によって調べたところ、何と数十億ウォンに相当する高価な財物が続々と明るみに出た。こうしたことから検察のメスが入ってその財物の入手経路が調べられ、高官は辞職に追い込まれたのである――

 私は残念ながら賄賂なるものを贈ったことも貰ったこともないので、その醍醐味や機微について語る資格はないが、いずれにしても前近代的で後進性を物語る遺物以外の何ものでもないと思っている。

 話は変わるが、北朝鮮でも「袖の下」が蔓延していると専らの噂だ。党員や役人たちに物を頼んでもなかなかすぐに動かないので、物事を円滑に進めるためにはやはり「袖の下」が効果を発揮するという。ここでも「魚心あれば水心」という人の情と、職権を利用してもろもろの便宜を図る賄賂の論理がうまく結び付いて立派に機能している。だが、月給だけでは生活が苦しいのだから彼らだけを責めるのは酷であろう。


  チェ・ソギ 作家。在日朝鮮人運動史研究会会員。慶尚南道出身。最近の著書に『韓国歴史紀行』(影書房)などがある。