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2008/03/07

<随筆>◇韓国の世界化とは◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国で最近、「韓国料理の世界化」という話をよく聞く。マスコミでも話題になっている。新聞などは社説までそれを論じている。「キムチの世界化」からさらに話が大きくなっているのだ。なぜか。

 理由はいろいろあって、たとえば短期的には日本のレストランがフランスのグルメ評価で最高点を取ったというニュースが、マスコミでうらやましさや嫉妬、冷やかし、皮肉まじりで報じられたことも関係あるようだ。いつもの日本に対する過剰意識から「ひるがえってわが国は…」というわけだ。

 あるいはもっと大きな背景として、韓国でも外食産業が市場開放され、海外の飲食チェーン店が多数進出してきたため、それに刺激され「われわれも海外に進出しようでないか」ということもある。

 さらに韓国人の海外旅行拡大で、世界における食を含む韓国文化の位置、位相が意識されるようになったことも関係あるだろう。韓国は今や何かにつけ海外進出であり世界化である。そこで「料理文化でも韓流を」というわけだ。

 いずれにしろ「韓国料理をもっと世界に売り込めないものか」の声が高まっているのだが、この目標にはいろいろ難題も指摘されている。たとえばマスコミ紙上で「韓国料理の世界化を急ごう」と訴えているさる大学教授は、こんな経験を紹介している。

 それは米国の大学教授たちを韓国で接待した折、「最も韓国的な料理」ということでホンオチム(醗酵させたエイの蒸し物)やケジャン(ワタリガニのショウユ漬け)、チョングッチャン(醗酵の進んだ納豆汁)などを出したのだが、まったくハシをつけてもらえなかったという。

 そこでくだんの教授は「やはり世界化のためにはまず相手の味覚への配慮が必要」といっていたが、ただテストがホンオにチョングッチャンではまずいではないか。あの強烈な醗酵臭には韓国人だってたじろぐ者がいるのだから。

 韓国料理の対外的難関の一つは、このように醗酵系が多いということだが、しかしハナつまみだった遊牧系のあのチーズだって今や世界化している。したがって韓国系の発酵食品だって必ずしも絶望ではないかもしれない。

 ところで国際的に日本料理の代表となっているスシ、スキヤキ、テンプラのうち、その起源を探ればスシ以外は西洋文化とのフュージョンだ。今や韓国を席巻してしまったおハシで食べる日本料理(!)のトンカツだって、西洋料理の日本的再創造、日本フュージョンである。

 こう見てくると「世界化」のためには何がしかのフュージョンは避けられないということで、韓国料理は現在、試行錯誤中だ。しかし食文化とは舌の味わいだけではなく、サービングを含む総合文化だという点で、ぼくは韓国料理の現状にはより不満だ。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。