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2008/02/22

<随筆>◇デジ・オンマ◇ 韓国双日 大西 憲一 理事

 知人に連れられて駅三洞の「ナジュ・コムタン」という店で中年の美人ママさんを紹介された。彼女は浅草育ちのチャキチャキの江戸っ子で、歯切れのいい浅草弁が心地よい。日本で公務員生活のときに韓国の素敵な男性と結ばれて、今はご主人が経営するコムタンの店の看板ママさんに落ち着いている。

 彼女の名刺には可愛いデジ(豚)が微笑んでいるが、彼女こそ知る人ぞ知るデジ・オンマ(豚のお母さん)として界隈では有名人とのこと。コムタンは確か牛料理のはずだが…。私の疑問に答えるように彼女はニッコリ笑って楽しそうに話し出した。

 「“エンゼル”は私の大事な娘で今年9才になるの。まだ独身」

 「昔から動物の鼻に関心があったけど(変わってますねー)、こちらに来て市場の店頭に鎮座する豚の鼻を見るたびに、生きている本物に触りたくてたまらず、主人に頼んでミニブタを買ってもらったの。それが“エンゼル“」

 「それからは鼻触り放題で実に楽しいわ。それに豚のIQは人間の5、6歳に匹敵するので犬や猫より賢くて、私の言うことは何でも聞くし、私を守るために怪しい人には果敢に噛みつくの。本当に孝行娘よ」

 「毎朝、“エンゼル”を連れて散歩を楽しんでいたが、ある日、大手新聞社の記者に見つかって一面に大々的に紹介されてからもう大変。新聞、テレビで一気に有名母子になっちゃった」

 「“エンゼル”は中々のグルメで、白菜も生は食べないがキムチにすると食べるの。最初は手のひらサイズだったのに、みるみるうちに大きくなって、今はまさに女盛り」

 ところで、コムタンとは牛の骨や内臓を煮込んだスープで、韓国ではソルロンタン、カルビタンと並んで「タン三銃士」と呼ばれているが、この店のコムタンは食のメッカ・全羅南道の羅州風で、牛骨をコトコト長時間煮出して絶妙の味を誇っている。酔い覚ましには最適なので酔客や仕事帰りの代理運転手さんなど常連の集まる深夜3時から9時が勝負時。夕方までママさんは愛娘エンゼルとの昼寝や語らいで鋭気を養って本番に備えている。

 ママさん特製のシャブシャブ風すき焼きを堪能した後で、「では、憧れのエンゼルちゃんに会わせてもらえませんか?」「今は大きくなったので、うちのビルの屋上に個室を作って一人住まいよ」

 ママさんの案内で5階の屋上にある彼女の個室を覗いてぶったまげた。鼻息荒く現れたエンゼルちゃんはまるまると太ったピンク色の巨体の持ち主で、身長1・5㍍、体重80㌔。

 「美味しそう!」思わず舌なめずりした私はママさんに思い切り背中をどつかれた。


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83-87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。