イエンナル、イエンナル、ホランイガ タンベ ピドン シジョレ(むかし、むかし、トラがたばこを吸っていたころ)
ある田舎の村にお百姓さんの家がありました。牛小屋の前庭で一羽のニワトリがコメ粒を見つけてはついばんでいると、それを見ていた牛が話しかけました。
「ニワトリさん、ニワトリさん。私たちはこの家で何年も一緒に暮らしているけど、互いに顔を合わせることもなく、話もしませんでしたね。これからは仲良くしようじゃありませんか」
ニワトリはだまって地面のコメを食べ続けています。牛はまた声をかけました。
「ニワトリさん、ニワトリさん。いつも不思議に思っていたんですけど、私は野良仕事に駆り出され、重い荷物を運んだり、畑やたんぼを耕したりしているのに、ワラや豆粕しかもらえません。それにひきかえあなたは、ぶらぶら遊んでばかりいて、何もしてないのに、おいしいコメを食べている。これはどうしたわけでしょう」
これを聞いたニワトリは、すまして言いました。「ねぇ、牛さんや。それは知恵がたりないからだよ。わたしは、一生懸命勉強して学があるから、あんたみたいに力仕事をしなくても食べていけるのさ」
牛は、ニワトリの話を聞いて、自分の不甲斐なさにがっくりし、へたりこんでしまいました。それを見て、牛とニワトリの会話を黙って聞いていた犬が、ニワトリに近づき、「やい、ニワトリめ。お前はなんて悪賢いんだ。善良な牛さんをいじめるなんてけしからん。牛さんがどんなにつらい仕事をしているのか、わからないのか。俺様だって、ご主人様のために夜中にドロボーが入らないように寝ずの番をしているんだぞ。それなのに、残りもののエサで我慢しているんだ。それなのに、お前ときたら、なにもせずにいいものばっかり食ってるじゃないか」と怒鳴りました。
ニワトリも負けていません。「なんだ、偉そうに。わたしは遊んでいるわけじゃない。世の中で一番大事な時を告げるという大事な仕事を任されているんだから。この仕事はやさしいようで、大変なんだぞ。真冬の寒さの中でも眠気をこらえながら時を計り続け、夜が明けたら大きな声で知らせなくちゃならないんだ。牛さんやあんたにはできっこないよ」
それを聞いた犬は、ますます頭にきて、「ふん、お前の仕事は簡単じゃないか。そんなことがどうして大事なんだい」と反論しました。
すると、ニワトリは、「私の言うことを信じないのなら、この姿を見てみなさい。からだに絹の洋服をまとい、頭には赤い冠をかぶり、目玉にはきれいな宝石がはめこんである。どこからみたって身分の高い両班(貴族)さ。時間というものは、過ぎてしまえば取り返すことができない。この世で時間ほど大切なものはないんだ。だからわたしは毎朝、夜明けとともに『コキヨ』と叫ぶんだ。これはな。漢字で『告其要』、つまり、それが重要であることを告げるという意味じゃ。そんなことはお前さんたちは知らんだろ。牛の耳に念仏、犬に小判だ」
ニワトリの偉そうな言いぐさに犬はますます腹を立て、「お前がコキヨとなくのはわかった。じゃ、おいらがモンモンとなくのはどうしてだ」と聞きました。ニワトリが、「ははは、モンモンというのはモンモングリ(ものを知らない)という意味さ」と答えたので、犬はくやしがり、「俺様だって両班さ」と見得を切りました。ニワトリが「お前のようなやつが両班とはちゃんちゃらおかしい」とせせら笑うと、犬は「二両半(イヤンバン=この両班)で売れるんだい」と負け惜しみを言いました。
「はっはっはつ。こいつはおかしい。犬買いに売られて両班になるとはケッサクだ」
がまんの限界にきた犬は「モンモン」と吠えながら、ニワトリのトサカに噛みつきました。ニワトリはあわてて屋根の上にのぼり、「こんちくしょう。悔しかったらここまでおいで」と「コキヨ」と鳴いて挑発しました。
犬は怒りが収まらず、屋根を見上げながら「モンモン」「モンモン」とあまりにも吠え続けたために、口が長く伸び、とんがってしまいました。
側でみていた牛も、ニワトリにバカにされたと知り、地団駄を踏んで悔しがりました。そのため、ヒズメがぱっかりと割れてしまいました。また、犬に噛まれたニワトリのトサカは、ノコギリの歯のようにギザギザになってしまったという話です。クッ(おしまい)。
*慶尚北道・金泉に伝わる民話