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2009/07/10

<随筆>◇金剛山観光◇ 広島大学 崔 吉城 名誉教授

 韓半島は国境ではなく、戦線ともいえる休戦線を以て南北が対置し緊張している。その境界線や非武装地帯は緊張の区域である。唯一の窓口の板門店で恒例の軍事停戦委員会が開かれニュースが流れることも多い。

 日本から韓国観光で一番人気とも言われる所が板門店である。韓国人には簡単に公開されていないので中国経由の白頭山観光などがある。これらは戦争の記憶を掘り起こし、観光化している。その観光商品の一つが板門店観光である。これらは閉鎖された北朝鮮を覗くような韓国側からの観光である。

 私は2001年韓国ソウルから板門店観光に参加し、2週間後、北朝鮮の平壌から板門店観光に参加し、同じ会談室にソウルからと平壌から入ることができたが通過することはできなかった。韓国と北朝鮮の板門店観光はそれぞれ覗き観光のようなものである。

 韓国人に嬉しい情報が流れた。北朝鮮の領土に踏み込める金剛山観光ができたのである。金大中大統領の太陽政策によって陸路観光が本格的に開始されたので私は04年参加した。金剛山観光では北朝鮮の領土を踏み、北側の警備の中にいるということだけでも北朝鮮観光ともいえる。しかし実際は現代峨山が作った施設の中でその社員によるサービスを受けるので北朝鮮の実感はそれほど湧いてこない。私は北朝鮮の景色より北朝鮮の人や文化に接することを期待した。

 金剛山観光においては板門店観光と同様、韓国側が「緊張感のある地点」を訪問するスリルを過剰に作っていることを私は強く感じた。それはガイドの態度から十分受け取れる。北朝鮮の人に「絶対に声をかけてはいけない、カメラは絶対に出してはいけない」という注意を繰り返す。しかし北朝鮮審査員は私にイラクに派兵したのかなど質問を浴びせた。北朝鮮の税関の女性たちは物品に対して注意を払わず日本に対して関心が大きく「日本は良いか」などの質問があった。入国手続きの時、録音機は絶対に搬入できないと強く言う。北朝鮮の税関員に「なぜ録音機は搬入できないのか」と聞いた。彼女たちは一斉に韓国側が北朝鮮を悪くいうためであるという。

 金剛門を通って九龍瀧に着いたが期待した滝は全部凍っていた。北朝鮮では「自然保護」という名目でトイレの使用料が小便1㌦、大便 4㌦である。世界で一番高い有料便所だという。自然保護といいながら岩には名前が刻まれたもの、特に岩に金日成などを賛美する赤文字の宣伝句が目立つ。

海金剛と三日浦に行った。案外海金剛が小規模なのに驚いた。景色も美しかったが北朝鮮の人々と対話を交わす時間ができたので良かった。北朝鮮ガイドの青年と話をした。彼は主に「なぜ日本という外国で生活するようになったのか」、「共和国をどう思うか」など私の話を聞きたがった。


  チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。慶南大学校講師、啓明大学校教授、中部大学教授、広島大学教授を経て現在は東亜大学教授・広島大学名誉教授。