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2009/11/06

<随筆>◇"ヒンダレタ"とは?◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 韓国に長く住んでいると、知らず知らずのうちに韓国的なクセができてしまう。その一つに、初めて会った人につい「お宅の故郷はどこですか?」と聞くのがそうだ。ぼくなど日本人相手にこれをやるクセがついてしまって、時に怪訝な顔をされることもある。

 韓国では相手の出身故郷を知っておくのは、人付き合いには必須である。直接聞かなくても、それとなく探りを入れて知ろうとする。韓国はそれだけまだ(?)地縁社会が色濃く残っているということだ。地縁抜きには韓国人、韓国社会は理解できない。

 ただぼくが日本人によく「故郷はどこです?」と聞くのには別の理由もある。ソウルで「ソウル薩摩会」というのをやっているので、その新しいメンバーをいつも探しているからだ。

 「ソウル薩摩会」はソウル在住日本人たちの同郷会の一つで、できてからもう十数年になる。メンバーは鹿児島と縁のある韓国人を含め四十人ほどになる。毎月、律儀に例会をやっていて、毎回十数人は集まる。しかしビジネスマンなどは必ず転勤がありいつかは帰国してしまう。だからいつも新しいメンバーを探していないと会はジリ貧になってしまう。そこで会の創設者としては、初めての日本人に会うとつい「故郷はどこ?」と聞いてしまう。会は毎回、夕食をともにしながらヨモヤマ話に花が咲く。楽しみは毎回、誰かが必ず持ってくるふるさとのイモ焼酎と、鹿児島県庁から大使館に出向しているメンバー(幹事役)が紹介する“ふるさと情報”だ。一同、最新のふるさとニュースを肴に、イモ焼酎を飲みながら故郷に思いをはせる。

 その十月例会で実に面白い話が出た。メンバーの一人が以前、隣の宮崎県にいたことがあるといい、宮崎の方言では「疲れた」を「ヒンダレタ」といっているというのだ。同じことを鹿児島では「ダレタ」というが、宮崎では「ヒン」がついているのだ。

 この話に一同、「ム、ム?」となった。そして「それ、韓国語の“ヒムドゥルダ(疲れる、シンドイ)”からきたんじゃないの!」ということでみんな興奮状態となり、座は大いに盛り上がったのだ。鹿児島では「ヒン」が取れて原型が分からなくなっているが、宮崎ではまだそのまま残っている?

 あとは鹿児島にはなぜか「韓国岳」と書いて「からくにだけ」という山がある話、さらには宮崎にある天孫降臨神話の「高天原(たかまがはら)のルーツは韓国」という説など話題は広がった。

 確かに慶尚南・北道の境にある海印寺の近くに伽耶大学というのがあって、その敷地には「高天原の故地」というでっかい石碑が建っている。この大学の総長が熱烈な日韓古代史ファンで、高天原の韓国ルーツ説を主張しているのだ。というわけで今回も実に「楽しい薩摩会」でありました。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。