ここから本文です

2009/11/13

<随筆>◇韓国文化のシャーマニズムパワー◇ 広島大学 崔 吉城 名誉教授

 韓国の音楽や芸能などの激しさが日本人にはうるさく感じるかもしれない。それは韓国人のダイナミックな精神構造の根底にシャーマニズムが横たわっているからである。韓国文化、芸術などを理解するためにはシャーマニズムを知る必要がある。シャーマニズムには普段の精神状態から恍惚状態へ変わる宗教的要素がある。

 韓国ではシャーマニズムが盛行しており、シャーマンは国の固有文化として文化財とされている。シャーマンとは人に神が降りてその人が一時的に神に変わるとみなされる人、日本では東北地方のイタコ、沖縄のユタのような存在である。シャーマン(巫堂)とは李朝時代には八つの卑賤民の一つであり、私が調査した時期にも被差別集団であった。彼等は政府の迷信打破政策によって消滅寸前まで追い込まれて嘆いている状況であった。1972年に私はシャーマニズムを研究するために日本に来た。その後、韓国のナショナリズムが強くなり、伝統文化に注目してシャーマニズムは固有文化として盛況するようになり、私が長い間、調査対象としていた被差別のシャーマンの金氏は「先生」と呼ばれ、後にいわば人間国宝にもなった。シャーマニズムを研究する学会も多く、私は顧問もしている。現在では学会などにもシャーマンが参加し、博士号を持っているシャーマンもいる。

 私の母はシャーマニズム信仰が強かった。父は儒教的な人で母の信仰に賛成したわけではないが子供の健康を祈る母に反対はしなかった。私は母の信仰から強い影響を受けて16歳までシャーマンの家を母とともに訪ねていた。母は毎年、中部地域で有名な神山である紺岳山(カマクサン)にシャーマンと一緒に行って祈りと儀礼を依頼していた。母は幼い私を同行させた。私は学校で教育を受けるにつれてシャーマニズムを遠く避けるようになり、批判的になった。そしてクリスチャンになった。多くのキリスト教会はシャーマニズムを迷信として扱った。しかし、シャーマニズムは消滅するものではなく、キリスト教会の核心部分において信仰として生き残っていることが分かった。多くのキリスト教会が土着化する中でシャーマニズム化する現象が起きているのである。教会の中で病気治療のための祈りなどはシャーマニズムと変わりがない。

 私は幼い時から母の信仰を信じていたのにキリスト教へ改宗し、クリスチャンになったが教会で再びシャーマニズムに出会うような異様な感がある。シャーマンの儀礼所がある山にはキリスト教の祈祷院が並んで存在することに私は強く矛盾を感じた。シャーマンは鈴や太鼓を叩きながら神秘境へ霊的に変身する信仰である。激しい歌舞は重要な要素である。韓国の芸術などにもシャーマニズムが横たわっている。韓国文化のパワーはシャーマニズムといえる。有名なサムルノリを聞きながら私はシャーマンの儀礼のクッを連想する。


  チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、文化広報部文化財常勤専門委員、慶南大学校講師、啓明大学校教授、中部大学教授、広島大学教授を経て現在は東亜大学教授・広島大学名誉教授。