最近の週末は「センタク(洗濯)」しながら「センタク」を飲んでいる。ちょっとややこしいが、飲んでいるのは「生濁」、つまり生のマッコルリです。生ビールと同じように殺菌(熱処理)前に瓶詰めしたものだが、そのためか乳酸菌がたっぷり入っていて健康に良いと、地元の男どもはがぶ飲みしている。私は単純に美味いから飲んでいるが、確かに今、韓国ではマッコルリが大人気だ。新聞では11月19日のボジョレーヌーボーが、今年はマッコルリヌーボーに取って代わられたと騒いでいた。
中央日報によると、マッコルリはカロリーが低く、血圧降下、コレステロール数値低下、肝機能の改善、皮膚の美白、果てはガン細胞成長抑制に有益と某大学教授が発表している。これは凄い。万能薬だ。でも、「まだ初期研究段階」と注書きしており、科学的証明まではいっていないらしい。
日本の若い女性の間でも韓国のマッコルリが静かな人気らしいが、皮膚の美白にも良いとなると、大ブレークの予感がします。
「センタク」を飲むには作法がある。まず緑色のボトルの先端を軽く掴んで、慈しむようにゆっくりと2~3度振り回してから、サバルと呼ばれる小さな丼鉢のような木製の容器に注ぎ、親指と人差し指でつまみあげて喉に流し込むのである。サバルがない店も多いが、ガラスコップでは折角の味が半減する。
この「センタク」の味にピッタリの店がある。その名も「マラトン」。飲食店が集中しているソミョン(西面)ロッテホテルの裏通りの一角にあるこの店は、看板に「SINCE1959」と書いてある通り、今年で50周年の老舗である。狭い玄関を入ると店内は地味ながら落ち着いた素朴な雰囲気で、まるで故郷の田舎に戻ったような安心感を与える。
さっそく、この店自慢の「マラトン」を注文すると大ぶりの海鮮チヂミが出てきた。牡蠣がふんだんに入っていて実に香ばしい。でも何故「マラトン」なの?二代目社長の美人ママが愛くるしい笑顔で説明してくれた。「昔、商売を始めた時は店には20席程しかなくて、名物料理の海鮮チヂミを食べるためにいつも長い行列ができていたが、待っているお客さんは早く食べたいので、“マラトンしましょう”と言い始めた。マラトン(マラソン)とは当時は競争するという意味もあったので、早く食べて席を譲ってくれと言うわけです」。
もう一つの名物はオデン。これは昔、先代の社長が偶然に日本の料理人から習ったと言うだけあって日本のオデンに遜色ない。秘伝のスープもいい味だ。「センダク」のピッチが上がってきた。今夜はトコトン飲むぞー。そして今日こそママを 。ふと見ると向こうからママが目で合図している。「えっ?他のお客が待っているからマラトンしてくれって?」
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。