イエンナル、イエンナル、ホランイガ タンベ ピドン シジョレ(むかし、むかし、トラがたばこを吸っていたころ)
ある村に、とても貧しい父親が三人の息子とともに暮らしていました。老いた父親は死ぬ間際、三人の息子を呼んで、一番上の兄にはひきうすを、二番目の兄にはひょうたんと竹のつえを、末っ子には太鼓を分け与えて、亡くなりました。兄弟はやがて、仕事を探すため、一緒に家を出て、分かれ道で別々に歩くことにしました。
一番目の兄は、ひきうすを背負って山道を進みました。けものの襲撃を避けるため夜は木の上に登りました。ある日、木の下でどろぼうたちが集まり、騒いでいました。一計を案じ、ひきうすを回しはじめました。
うすをひく音は、あたりに雷のように響きました。その音に驚いたどろぼうたちは、「これは天罰に違いない」と叫んで、集めた金や宝ものを投げ捨てて逃げました。一番目の兄はそれを手に入れました。ひきうすのおかげで大金持ちになったのです。
真ん中の道を歩いていった二番目の兄は、墓地の前で夜になりました。墓石と墓石の間で夜明かしをしていると、不気味な足音が聞こえました。そして、「がい骨よ、起きろ!」とささやくのです。
それはトケビ(韓国の伝説上のばけもの)でした。二番目の兄は恐怖に耐え、「わしはさっきから、お前を待っていた」と答えました。トケビは、「不思議だ。お前から人間のにおいがする」と答えました。
二番目の兄は、「なに、疑うなら、頭にさわってみろ」と返答しました。そしてトケビが手を伸ばすと、父親からもらったひょうたんを出しました。トケビは、「髪の毛が一本も無い。やはりがい骨だ。今度は腕を出してみろ」と言います。二番目の兄は竹のつえをさわらせました。
「やせてがりがりの腕だな。疑って悪かった」とトケビは謝りました。
トケビは、「今から、金持ちの娘のたましいをいただいてくる」と出かけました。しばらくして戻ったトケビは、「この手の中に娘のたましいが入っている」と、手を見せました。
二番目の兄は袋を取り出して、「無くさないようにここにしまおう」と言いました。トケビはその袋に娘のたましいをいれ、二番目の兄に預けました。
その時、一番鶏が鳴きました。トケビは驚いて、そのまま去りました。
二番目の兄は夜明けを待って、その金持ちの家に出かけました。
主人に会い、「私が大事な娘さんを生きかえらせてあげます。ただし、診察している間は、絶対に部屋をのぞかないでください」と注意しました。
部屋に入ると二番目の兄は、死んだ娘の鼻に袋の口を近づけました。すると娘のたましいが、鼻から体の中に入っていきました。金持ちの娘を生きかえらせた二番目の兄は、やがてその娘の婿となり、財産の半分をもらうことになりました。
さて末っ子は、父親からもらった太鼓をたたき、歌を歌いながら森の中を歩いていました。しばらくすると、大きなトラが、楽しそうに踊りながら近づいてきました。そのまま、ある村に着きました。踊るトラを村中の人が見物に来て、お金を投げ入れてくれました。末っ子はトラをつれて、村々を歩いて踊って見せました。
そのうわさは、王様の耳にも届きました。王様はそのトラを手に入れようと、「金はいくらでも出すから、トラをゆずってくれ」と、末っ子に頼みました。末っ子はわざと、「このトラは先祖代々、わが家に伝わっている宝物です」と答えました。王様は、「金は望みのままに与える」と話しました。末っ子はトラと太鼓を王様に献上し、黄金一万両を受け取りました。
金もちになった三人の兄弟は、また同じ家に住み、いつまでも幸福に暮らしたというお話です。クッ(おしまい)