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2010/01/22

<随筆>◇「白虎」◇ 韓国TASETO 大西 憲一 専務理事

 今年は寅年、韓国人にとって虎はもっとも身近な動物であり、畏敬の対象でもある。当地では大昔の話をする時に「ホランイ タンベ モクトンシジョレ(虎がタバコを吸っていた時代)」というが、韓国人の虎への親近感が表れていて面白い。

 その虎の中でも今年は60年ぶりという「白虎」が牙をむいて大暴れしている。昨年来の寒波は北半球を覆い尽くし、欧州では凍死続出、中国でも大雪と寒波で100万人の被災者が発生、常夏のインドでも多数の凍死者が出ている。

 韓国も寒波の襲撃をまともに受け、ソウルは観測史上最大という25・8㌢の積雪を記録、氷点下10度以下の酷寒日が続いている。私も何年か前にソウルで零下19度の経験があるが、突き刺すような寒さで肌が痛くてとても長くは外にいられなかった。

 いい時に釜山に逃げてきて良かったなーと思っていたら、世の中そう甘くはない。気温こそはソウルより高く雪も降らないが、東海(日本海)から吹きつける海風のために体感温度は相当低い。

 特に私のアパートは海辺にあるので強風をまともに受けて氷のように冷やされる。築30年で機密性がすっかり衰えた窓から寒気が容赦なく飛び込んで来るので、いくら暖房をつけても追いつかない。その上、旧式のガスボイラーはいつも機嫌が悪く、補助の電気ストーブをつけながら厚手のガウンにくるまってテレビの前で震えている。

 「何が地球温暖化じゃ?」と悪態をつきたくなるが、新聞ではその地球温暖化が原因で北極振動が南下してどうのこうのと難しいことを言っている。実は長いスパンで見ると氷河期に向かっているからという学者もいて訳がわからない。どっちでもいいが、春が待ち遠しい。

 ところで我が社の社長のKさんが最近、やけに威勢がいい。彼は今年還暦で「白虎」の年男。何でも年初に行きつけのチョムジェンイ(占い師)に見てもらったところ、「今年は人生最後のチャンス。白虎のような勢いで突っ走れ」と言われたとのこと。白虎生まれは誰でもチャンスがある訳ではない。彼は60年前の冬の日の夕方に生まれたが、この時期、この時間になると白虎は獲物を求めて果敢に動き回るので、それにあやかっての話らしい。もともと、韓国人特有のバイタリテイーで突っ走ってきて財を成したKさんが、さらにアクセルを踏むとどうなることやら。

 先日の取引先との会食でもKさんは絶好調で、40何度の焼酎をグイグイと飲み干しながら、猛虎のように鼻息も荒く「大西さんも今年は虎のようにガンガンやりましょう」「でも、日本人には虎はあんまり馴染みが…」、猫のように弱々しい私の言葉に業を煮やして、「でも確か日本にも虎がいましたね?」「張り子の虎のこと…ですか?」


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。04年4月、韓国双日に社名変更。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。