かれこれ半世紀も前のことになると思うのですが「家の女房にゃヒゲがある」という唄がはやりました。戦後の女性の地位向上、男女同権などの新しい風潮の中で生まれたヒット曲だったのですが、このようにヒゲというものはもともと権威のある者、力強い者などの象徴としてとりあつかわれてきたような気がします。韓国で言えば李王朝の儒学者達、日本では武士に始まり明治以降の軍国時代の軍人達、いかにも堂々として頼もしく見えます。しかもこのヒゲだけは男にしかはえません。男らしさの象徴ともいえましょう。
このヒゲの小話で韓国には面白いものがありますので一つご紹介致しましょう。ある時、米国の美男俳優ロバート・テイラー(かなり古いかナ)の口ひげを見て自分もあんなにモシッケ(恰好良く)ヒゲをたくわえたいと思った青年がいたのですが、あいにく彼は薄毛体質。「よしそれじゃ植毛をしよう」てなことで最初は自分の頭髪を口の上に移植したものだが、白いフケが出て来てかゆいのでダメ。「よし、それじゃわき毛を」てなことで移植したのだが、今度はワキガの匂いが強烈でこれも良くない。
さてこの話、徐々にオチへと続くわけですが、紙面の性格上これ以上書き進むことは出来ません。そこは想像たくましい諸兄たち、お好きなように口ヒゲを伸ばしてみてください。
まっ、くだらなさ過ぎて失笑を買いそうですが、1980年代に漢南洞でユーヘン(流行)した小話です。
さて本論にもどりますと最近韓国ではこのコースヨム(鼻ヒゲ、口ヒゲ)がかなり流行しています。芸能人をはじめとして、私の周囲にも沢山口ヒゲをたくわえる人が増えてきました。それも圧倒的に若い人が多いようです。久しぶりに「ナンデカナ」と考えて見ました。答えは簡単でした。韓国男性の女性化が、というよりも韓国女性の男性化が強くなって来たためだと考えられます。
十数年前、日本ではアッシー君(足君、ちなみに交通担当フレンド)、メッシー君(飯君、食事担当フレンド)と呼ばれて女性にアゴで使われるヤワな男性群が出現しましたが、彼らが「これじゃいかん!」と覚醒して男性らしくヒゲをはやして、その女性群を一掃したと云う歴史的事実があるからです。
韓国チョルムン(若い男性)のヒゲたくわえ事情には外見だけでも男らしく見せて女性の云いなりにはならないと云う「キップン イユ」(深い理由)と「タクタクハン キョルイ」(固い決心)があったのです。
ということで、あまり信用のできる話じゃありませんので、適当に読み流してくださいね。ちなみに私も若くはないのですが、4月1日から口ヒゲを伸ばし始めて2カ月半、家内を始め周囲の人からチングロー(気色ワルー)とひんしゅくを買っています。
1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。