久しぶりにソウルと釜山の間を高速鉄道KTXで往復した。フランスモデルのKTXは、日本の新幹線とは違って軽量で車体も小さい。そのせいか座席が窮屈だ。とくに普通席は狭くて小さい。いわば特急電車のような感じで、長時間だと疲れる。
そこで3時間近くかかるソウル・釜山だと、値段が高くても座席の広い「特室」にする場合が多い。日本風にいえばグリーン車というわけだ。
しかし、それでもそんなに高級感はない。KTX自体が日本の新幹線のような重厚感がないためだ。ただ気さくな感じはある。後発の新世代高速鉄道としては、そんなビジネスライクなところがいいのかもしれない。個人的好みではグリーンないしブルー系の車内カラーは気に入っている。
気さくで気楽な感じということでいえば、KTXをはじめ韓国の国鉄は最近、改札や車内検札がない。「特室」でも何でもキップを買ったあと一切のチェックがないのだ。
ただ気楽ではあるけれど、日本の鉄道に慣れた者とすればどこか落ち着かない(電車や地下鉄には改札口がある)。
したがってソウル駅でも釜山駅でも、出入口には改札がなく、駅員もいない。いわばまったくのフリーパスなのだ。当初は改札機などで乗降客の切符をチェックしたが、今は何もない。
ソウル駅では出入口の床に黄色いラインが引いてあるだけだ。そこにはハングルで「顧客信頼線(運賃境界線)」と書かれており、英語でも「We trust you!」とある。お客を信頼してキップはチェックしませんというわけだ。
KTXだけでなくほかの列車も同じだ。どこの駅でもチェックしない。車内検札もない。これだとソウルから釜山まで、空席がある限りキップを買わずとも堂々と乗れる。これは相当の英断である。
最近のニュースによると、当然ただ乗りがかなりあるようだ。しかし鉄道当局はじっと“ガマンの子”になっている。経営赤字といわれる韓国国鉄なのに、よくやっていると感心する。
ノーチェックを含め「気楽なKTX」だが、ぼくが気に入らないのは車内乗務員や車内販売の売り子の姿だ。制服、制帽ではなく、単なるワイシャツ姿でどこかしまりがない。とくに乗務員はできれば制服、制帽で乗客に安心感を与えてほしい。
それにカートを押すあの男の車内販売は何とかならないでしょうかねえ。以前は若い女性だったように思うが、今はむくつけきアジョシ(おじさん)なのだ。ビール、コーヒーにしろ弁当にしろ、あれでは買う気になりません。何とかしてください。
かっこいいKTXなのにどこかアンバランスなのだ。このアンバランスが韓国的な“情”あるいは“味”なのでしょうか。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。