ぼくは韓国に長く住んでいるが、今でも時に、いやしばしば「ああ、そうか!そうだったのか!」と驚いたり感心したりすることがあって、それがまた韓国に住んでいる面白さになったり、今なお韓国暮らしに飽きない楽しみになっている。最近もその一つにでくわして、うれしくなった。
日韓の大学の先生たちと会食があった折、激辛系の料理が出て、日韓の甘辛談義になった。その際、日本の先生が「日本では唐辛子も塩もみんな“辛い”といって区別がないなあ、韓国ではどうです?」となった。
これには当然、韓国の先生は「よくおっしゃいました、そう、韓国では唐辛子はメプタですが、塩はチャダですからまったく違いますねえ」といった。これは当然、ぼくも知っている。
すると日本の先生が「日本では辛いの反対は甘いですが、韓国ではどうですか?」というと、韓国の先生は「塩辛いの反対はシンゴップタ(水っぽい感じ?)ですが、唐辛子の辛いの反対は何だったかなあ、アンメップタ(辛くない)かな。反対語はあったかなあ 」とおっしゃる。
ぼくにはこれも分かるが、韓国の先生はさらに「でも韓国では甘いの反対は辛いではなく“苦い(スダ)”ですねえ」とおっしゃった。これがぼくにとっては発見で「そうだ、そうだったんだ!」と感動したのだった。
この「甘い(タルダ)と苦い(スダ)」の反対語の話は、今から四十年ほど前、韓国語を習いはじめたころ聞いたような気がかすかにする。しかしすっかり忘れていたので、いっそう感動したのだ。こんな味覚感の違いなど実に面白いではありませんか。
感動のしついでに、このところ韓国を訪れる日本のお客さんによく紹介している。韓国旅行のいいお土産話になるのではないかと思って。
この席でも出た話だが、韓国人から見て日本料理を象徴する味はやはり「醤油味」だという。塩の刺激的辛さを抑えた醤油のやわらかな辛さ、これが日本的だというのだ。で、日本の寿司で、握った後、ご飯の上にのった寿司ネタにハケでさっと醤油味をつけて出すスタイルがある。いわゆる江戸前が本来はそうだったと聞いたような気がするが、由来については自信ない。
このスタイルの寿司を、実に美味かつ上品に握って出す寿司屋を、最近ソウル中心街で発見した。ビルの地下でカウンターだけの十席というこじんまりさも好ましい。韓国人の主人が一つ一つ握って出してくれる。値段もお手ごろで、韓国でこんな寿司屋が登場するようになったかと、これまた感動である。
光化門の世宗文化会館裏、ロイヤルビル地下の「おがわ」(電話02・735・1001)です。一つの日韓文化現象として訪ね、味わってみてください。
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。