日本の繁華街や百貨店のコーナーなどでは手相やコンピューター占いがポピュラーに行われ、人気のある所も多い。それだけではない。神社などでは御籤が観光商品の一つともいえる。テレビなどでは今日の運勢が報じられる。結婚式などは吉日を選ぶ習慣がある。大部分の占いの基本は陰陽の運をあわせてみる中国の易書が基になっている。韓国も中国の易書(易学)からの影響が強い。一昔前までは正月には新年の運数を占うのが国民的な風習にもなっていた。また結婚には相手との運が合うか「宮合」(子宮合わせ)占が行われる。人の運は生年月日時の4つ(「四柱」)によるといわれ、それを占って見るのが常識であった。
韓国の占いに関しては、伝統的に古典と言う『土亭秘訣』、また今は古典となったが朝鮮総督府の植民地調査資料として発行された村山智順の『朝鮮の占卜』という2冊がある。私はそれらを読んで分析したことがある。占いとは全く陰と陽を任意に混ぜ、数字化して御籤文をいれたものの中から選ぶようなものであり、全体の3分の2くらいは幸運の内容であり、その他は悪運あるいは注意すべき点の内容である。偶然という事実に神秘性をおくという意味があるといえばそれなりに解釈の余地はある。
占いから韓国人の意識構造を読み取ることが可能である。中でも印象的なことは韓国人の人間関係の開放性に関することである。たとえば占いの文の内容に「東南方で貴人に会って助かる」というような占掛が多い。つまりどの方向へ行けば「貴人に遇う」幸運だという。それは外で良い人に会う可能性を例示している。つまり他人が住む他郷は「貴人」が混ざっている世界でもあるということである。外に対する否定的な信仰や態度もあるが、占いは外部へ出るように積極的に訴えている。
この迷信のような占い書が赤の他人に人間関係を開放していることである。その所為か私は他郷へ青雲の夢を持って故郷を出て点々としてきた。
偶然に会った人との幸運とはただ依存型のように思われがちであるが、人間の社会性を表すことである。韓国人の移民など外国への流れの一つは占いのパワーかもしれない。占いは一つの社会化教育の機能をしていると言える。
韓国人や中国人は長距離旅行などの車内で他人との話を楽しむことが多い。このような風景は日本ではほとんど見られない。日本人は迷惑を掛けない、個人情報を守るなどで個人化し、過剰に孤立している。弱者にも手を貸そうとしない。
キャンバスの中で77段もある階段を重いカバンを持って歩いていても一度も学生から手伝いますと声を掛けられたことがない。私は韓国の車内で若い女性から、解けたことに気が着かず靴の紐まで結んでもらったことがあり、印象に残っている。しかし、日本では反面、社会福祉施設は発展している。
チェ・ギルソン 1940年韓国・京畿道楊州生まれ。ソウル大学校卒、筑波大学文学博士(社会人類学)。陸軍士官学校教官、文化広報部文化財常勤専門委員、慶南大学校講師、啓明大学校教授、中部大学教授、広島大学教授を経て現在は東亜大学教授・広島大学名誉教授。