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2010/12/10

<随筆>◇「オンメ・気ジュゴ」「オンメ・気サラ」そして「キゴマンジャン(気高萬丈)」◇                                                       韓国ヤクルト共同代表副社長代行  田口 亮一 氏

 表題の三つの詞に共通しているのは「気」です。韓国の会話にはこの「気」を使う表現が多いし、その雰囲気を良く伝えているものが多い。今から20年位前に金美和、金桓国という男女のコメディアンコンビがいつも夫婦役で漫才というかコントで「オンメ・キジュゴ」「オンメ・キサラ」と、がっかりした様子と元気が出た様子の動作入りでやり、大人気を博したことがありました。お二人は今でも時々テレビで見かけます。この場合「オンメ」は多分、女性言葉の感嘆詞「オモッ」の地方なまりだと思いますが、「アラッ」というかちょっとした「アイゴ」の意味で「キジュゴ」は気がチュゴッタ(死んだ)、「キサラ」は気がサラッタ(生きた)と云うことで、「アーッ参った、死にそうー」「オッやったァ、元気が出るワイ」という感覚でしょうか。

 このオンメ言葉は一時的な流行語でしたが、「オンメ・キサラ」をもう一段強調したものとして日常会話でも良く使う「キゴマンジャン(気高萬丈)」という言葉があります。例えばゴルフのドライバーが年に一回の素晴らしいあたりをした時、打った本人が「オンメ・キサラ」で大喜び、大はしゃぎをしている時、他の3人がやや冷やかし気味に「キゴマンジャンイグナ」(意気軒昂で良ろしおまんナ)と言う訳です。

 さて10月20日から11月27日まで、ウリチベ(我家)では「オンメ・キジュゴ」のもう一段上の「オンメ・キジュゴジュゴ」の状態が続いて本当に憂鬱な事でした。10月20日の夕方、某大学の先生と焼酎大飲酒の結果、道路で転倒、頭から血がたくさん出たため頭部内出血の疑いをもたれ、あわや頭の切開手術を行われるところだったのです。ソウル大学病院の緊急医療センターでのCTをとられ、「重患者専門室」に一晩入れられて、そこは脳内神経外科の「重患専用室」ですから、手術後の入院患者ばかりでちょっと怖いものでした。幸いにして私は脳内出血もなく単なる打ち傷でしたが、念のため、4日間も入院させられました。

 ここまでならパボ(馬鹿)な私の笑い話なのですが話はここでは終わりません。11月16日、大腸検査を行った家人が大腸がんと診断されたのです。2カ所の病院でクロスチェックの結果、間違いなさそうなので、22日K大病院入院、24日同病院の著名な金博士による摘出手術と、本当に生きた心地がしませんでした。幸いにして転移はなく無事退院しましたが、今回ほど夫婦の健康と愛情の大切さを感じたことはありませんでした。

 このように「オンメ・キジュゴ」状態から今はやや「オンメ・キサラ」状態になりつつありますが、年末、そして2011年は公私共に「キゴマンジャン」の世界を維持したいものだと考えております。

 それにしてもヨロブン、特に亭主関白系統のお父さんヨロブン、奥さんを本当に大切にして下さいよ。


  1943年満州国生まれ。東京都立大学人文科学部卒。69年ヤクルト入社、71年韓国ヤクルト出向。94年から同社共同代表副社長代行。