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2011/04/01

<随筆>◇治にいて乱を忘れず◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 今年の韓国の冬はひどく寒かった。暖房代(ガス料金)の請求書を見てもそれがわかる。普通は「三寒四温」的なはずなのに、酷寒が何日も続いた。その余震(?)だろうか、寒の戻りの「コッセム チュイ(直訳すれば“花妬み”となり日本語だと”花冷え“にあたる)」もしつこい。この原稿は彼岸も過ぎた月末に書いているのだが依然、「春は名のみの風の寒さよ…」が続いている。こんな年の夏は逆に、猛暑になりはしないかと、今から気になっている。

 地球的な気候温暖化のせいだろうか、ソウルの気候にも近年、妙な変化がみられる。やたら風が吹くのだ。だから冬など実に寒くなった。テレビの天気予報もよく「体感温度」などという言葉を使っている。風のせいで実際の気温より寒く感じるのだ。

 ところで一九七〇年代にソウルに語学留学した折、韓国語のテキストに「韓国は四季がありその変化が美しい」ということが”韓国らしさ“として紹介されていた。これを見て日本人留学生たちは「日本だって四季折々の風景があるのだから、ことさら自慢することでもないのに…」などと陰口をたたいた。ぼくもそう思っていた。

 ところがその後、韓国で長く暮らすようになり、韓国は日本よりはるかに季節の変わり目がはっきりしていることがわかった。季節感が強いというか。

 それを感じさせるのは、たとえば樹木がそうだ。韓国では街路樹でも山でも常緑樹が少なく、冬となるとみんな葉を落とす。山など枯れ木あるいは裸木ばかりで地肌が見え、見通しがいい。

 ぼくは渓流釣りで山によく行くが、冬枯れの山、枯れ木に花が咲く早春、ワッという新緑の初夏、紅葉の秋…など季節の変化が実に鮮やかなのだ。街路樹だって新緑はドッとはじまる。

 韓国の田舎、つまり山間部に行って感じるのは、日本とちがって韓国の山あるいは自然が実におだやかに見えることだ。山がなだらかで険しくないため、田舎が明るい。川の流れもゆるやかである。これは何を意味するかというと、韓国は地層が古いということだ。山や土地が歳月に洗われ削られ、なだらかかつおだやかになったのだ。岩山が多いのもそのせいだろう。

 韓国で大きな地震が無いのは、地層が古く安定しているためだと思う。そこで日本の東日本大地震に同情し慰めてくれる韓国人の中には、半ば本気で「韓国に移住してはどう?」という人もいるが…。

 しかし一九七〇年代に十万人規模の犠牲者が出た中国・河北省の唐山の大地震は、山東半島のすぐ近くだ。ソウルからは日本の宮城県あたりよりはるかに近い。自然災難は心配しだしたらキリ無いが、北朝鮮による突然の韓国哨戒艦撃沈事件から一周年をふくめ、やはり「治にいて乱を忘れず」である。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。