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2011/04/22

<随筆>◇ガラパゴス化◇ 韓国TASETO 大西 憲一 専務理事

 3月も終わりのある日、アパートの敷地の隅に群れ咲いている黄色い花を見つけた。ケナリ(レンギョウ)だ。韓国の春はケナリで始まると言うが、私は毎年、寒さ厳しい韓国の冬を耐えながらケナリの開花を心待ちして来た。そして、その鮮やかな黄色を目にした時、何とか越冬できた喜びに浸れる。

 でも今年はすっかりケナリを忘れていた。日本の未曾有の大災害のために自然の営みを味わう余裕すら失くしていたようだ。先日は近くの三益ビーチアパートの桜並木が一斉に開花した。ここは釜山でも有数の桜の名所なのである。いつもなら早速、花見に繰り出すところだが、今年はちょっと気が重い。日本では花見自粛のニュースを見ているので、いくら外国でも陽気に騒ぐ気になれない。先月は駐在員が楽しみにしている日本人会のゴルフコンペも中止となった。定期的な飲み会も自粛気味。被災地の過酷な状況を考えると、同じ日本人として我々だけが楽しむ気にはとてもなれない。

 ところが日本国内では「自粛の自粛」が叫ばれだした。過度な自粛は経済停滞に繋がり、かえって復興の遅れが懸念されるというわけだ。いわゆる「二次災害」である。被災地・宮城県の村井知事も訴えている。「被災地が元気になるには日本経済全体の元気が必要だ」。「元気を出せ、日本」である。我々もこれからは(適度に)元気に飲もう。

 最近、電力不足、モノ不足の日本からいろんな要請を受ける。「韓国に○○はないか?」「ありますが日本の規格承認は取っていませんが」「ではダメだ」。多くの物品が日本の規格にあわず、折角、モノがあっても輸出できない。この非常事態なら使えるものは何でもいいと思うのだが、日本の規格は厳しい。昨年、日本では火災報知機の設置が義務づけられ、大量調達の話があったが規格が合わず、韓国を含めて安い海外製品は相手にされなかった。

 今、日本の「ガラパゴス化」が問題になっている。生物が独自の進化を遂げてきた孤島「ガラパゴス諸島」に日本が似ていると言う事だ。日本国内だけの競争で進化しても世界では通用しなくなって来た。例えばガラパゴスケータイ。略してガラケーというらしい。逆に世界の常識が日本では通用しない。内向きの若者も増えてきた。貿易立国の中で育ってきた私らにはピンとこないが、どうも昔と様子が違う。世界に取り残されている。

 韓国は今や世界で5番目の自動車生産国となり、世界中で韓国車が走っている。韓国車に乗ったロシア人は言う。「車は快適に走ればいい。韓国車で大満足」。でも日本では売れない。何故か?

 「日本は門戸を開け!若者は世界に羽ばたけ!」いつもの飲み屋でえらそうに気勢を上げたが、酔いがさめてから自問自答していた。(毎日、同じ会社と飲み屋を往復しているだけの人間でも海外にいれば進化するのかな?)


  おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。