現役女学生との合コンという計画を聞いて、年甲斐もなく勇んで参加した。でも誤解しないでください。正確には、「昌原大学・日語日文学科4年生と釜山日本人会・昌原支部会員との交流会」という真面目な会合で、女学生だけでなく男子学生も参加するもの。昌原大学は釜山から車で小一時間の所にある韓国有数の工業都市・昌原市の名門大学だが、この大学の日本語女性教師・山田先生と現地日本人会が企画した初の試みです。
昌原ホテルの合コン、ではなくて交流会の会場に元気のいい学生たちが現れた。まるで就職の面接に向かうような緊張した顔が初々しい。待機していた日本人駐在員のオジサン方も普段とは勝手が違って硬い表情で迎える。子供くらい年齢が離れているので、話が噛み合うか心配している。
場の空気をほぐすように、支部長の飯淵さんが軽妙な語り口で講話を始められた。朝鮮半島の地域別人間模様、日韓の面白い名前など興味深い話に会場は笑いに包まれる。
飯淵さんは1970年代初頭に馬山輸出自由地域に進出されて以来、40年近く韓国に駐在されている、いわば、在韓日本企業の草分け的な方である。しかも合弁ではなく100%自己資本で進出され、今や地元に根を下ろした屈指の優良企業に育て上げられている。ここに至るまでのご苦労は並大抵ではなかったはずだ。
各テーブルごとの学生との対話は、彼らがあらかじめ準備して来た質問形式で始まった。「就職活動へのアドバイスは?」「日本語を生かせる職場は?」「韓国人と日本人社員の違いは?」。4年生だけあって一番の関心事は就職。「日本語だけではアカンで」「就職と就社は違うで」。ベテラン駐在員の厳しい忠告に学生は神妙にうなずく。
実は日本と同じように韓国の学生も未曾有の就職難に直面している。昨年の新卒者の就職率は51・9%にすぎない。しかも大学の学費は先進国11カ国の購買力平価基準比較で米国に次いで2番目に高いとの報道がある。家族には大きな負担だが、親たちは子供の将来のために無理をしている。その結果の就職難ではたまったものではない。原因の一つに82%という世界有数の進学率がある。
ちなみに日本や欧米は40~60%程度。大学の濫造も問題だ。高学歴と学閥が幅を利かせている韓国社会の歪みが国民に重くのしかかっている。
でも目の前の学生たちはあくまで前向きで頼もしい。それに昌原地区は大企業が多く就職率は比較的高いらしい。学生が反撃(?)に出た。「本音では韓国人をどう思いますか?」。ストレートな質問にオジサン方もタジタジする。最後に日本人長老が一言、「学生は夢が大事。でも最近の日本の学生は正社員が目標だと聞いた。情けない」。他人事とは思えないのか、元気だった学生たちもちょっと複雑な顔をしていた。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。