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2011/07/29

<随筆>◇平昌五輪と仁川開発◇ 吉原 勇 氏

 2018年の冬季オリンピック会場が韓国の平昌に決定した。平昌は日本での知名度は低かったが「冬のソナタ」のロケ地だったことも判明、ソウルからそれほど遠くないという地の利もあり、日本人が大勢押しかけることになると思われる。しかもオリンピックの設備は既にかなり整備されているようだから、成功は間違いないと思われる。

 しかしこの五輪開催を経済成長にどう結びつけるかというと、簡単ではない。冬季五輪による経済浮揚効果は長野五輪で分かるように夏季五輪の数分の一である。

 平昌では既存設備を最大限活用するとされているから新規投資は抑えられるだろう。建築投資というハード面での浮揚効果はさらに限定的になる。

 そこで力を入れるべきなのはソフト面の拡充である。ソフト面というと分かりにくいかも知れないが、ひとつ具体的にいうと平昌の街を魅力的なものにしてそれを世界に発信、国際的な観光地に仕立て上げることである。簡単ではないが五輪開催地というお墨付きをもらったのだから、やれば出来るはずである。

 ソフト面の開発が不十分なため苦戦しているケースが韓国にはある。仁川の松島地区開発である。私は昨年、松島地区を見学する機会を得た。想像を超える膨大な超高層マンション群には度肝を抜かれたが、人影がまばらだったのが気になった。なぜなのか尋ねてみると、ほとんど売れていないからだという。これは由々しきことである。

 あれだけの巨額投資をしてそれが生かされていないとすれば、いずれ韓国経済の足を引っ張ることになる。なかには「高速道路も高速鉄道もみんなの批判を押し切って成功した。今度も成功するだろう」と楽観視する人もいるが、交通インフラと住宅は同一視する訳にはいかない。

 松島地区開発の目的は第二のドバイを目指そうということだったようだ。世界中の富裕層にマンションを買ってもらい、別天地を作ろうというその発想は確かに素晴らしい。自然環境も仁川の方がドバイよりはるかに恵まれている。

 だからといってハードを造れば結果は自然についてくる、という考えでは駄目なのである。世界の人を招き寄せる魅力が周辺になくてはならない。ドバイには石油取引の中心地のひとつという切り札がある。それでもリーマンショックも影響して開発は頓挫しかけている。

 松島地区開発を成功させるためには、やはり仁川全体の魅力を高めPRする努力が必要である。

 日本で出版されている韓国観光案内を見ても、ソウルで観光案内を探しても、仁川についての記述はほとんどないに等しい。これでは空港が存在するだけの街とみなされてしまう。隠れた観光資源はいっぱいあるのにもったいないことである。


  よしはら・いさむ 1938年京畿道生まれ。毎日新聞経済部記者、編集委員、下野新聞社取締役、作新学院大学講師を歴任。著書に「特命転勤」(文藝春秋社)「降ろされた日の丸」(新潮社)など。