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2011/08/05

<随筆>◇大きいことはいいことだ?◇ 産経新聞 黒田勝弘 ソウル支局長

 ソウルの旧市街には景福宮や徳寿宮、昌徳宮、慶宮などいくつかの故宮があり、周辺にはその名前をとったお店やアパート・マンションなどがたくさんある。その際、住所の英語表記をどうするかで、あるマンションの場合、「キングズ・ガーデン」とした。

 ところがその住人の息子がアメリカに留学し、大学で奨学金を申請したところ「ダメだ」と受け付けてもらえなかった。理由は「キミの住所を見ると王族のようだ。奨学金などいらないのではないか」といわれたというのだ。

 似た話にこんなのもある。ロッテ・グループが各地で開発している高層マンションに「ロッテ・キャッスル」というのがある。やはりその住人の娘がアメリカに留学し、奨学金を申請したところ「あなたの家族はお城に住んでいるようだから、奨学金は出ません」と断われたというのだ。

 ロッテ・キャッスルなど相当、高級マンションだから、「金持ちでは?」といわれてもあながち的はずれではないが…。

 日本でもマンションの名前は、聞くと気恥ずかしくなるくらい、派手で、大げさなのが多いが、韓国人は何かにつけ「大きければ大きいほどいい」という人たちだから、日本人よりネーミングは派手だ。

 会社の名前でも「大(デ)」のついたのが大好きで、多い。デウ、デリム、デサン、デシン、デハン、デヨン、デウォン、デホ、デドン、デユ、デチャン、デソン、デウン、デジン、デファ…。そもそも韓国の正式国名だって「大韓民国」である。

 この「大」とともに、大好きなのが「王(ワン)」だ。とくにワンカルビ、ワントンカツ、ワンコドゥンオ、ワンマンドゥ、ワンセウ、ワンジョクパル、ワンデポ…など飲食物に多く、でっかいのをいう。大男のワラジのような、薄くてでっかいトンカツを「ワントンカツ」というが、学生街などで人気だ。食欲が出ますねえ。食べ物でなくても「ワンオンニ」といえば女性グループでのリーダーを意味する。韓国人とこんなネーミング論をやると、きまって登場するのが「ワンチャ…」。この意味は韓国人に聞いてみて下さい。

 ところで韓国ではスーパーなどで食料品を買うとき、ワンパックというかひと山の量が多いので、一人暮らしには困る。肉でも今なお、「一斤」と称し、500グラムが何となく基準になっている。だから100グラムとか200グラムなど買いにくく、最低でもつい300グラムとか400グラムといってしまう。焼肉屋でも追加となると必ず二人前以上だ。そして食い残すのだから世話ない。

 韓国暮らしではこの「見栄っぱり」心理がついて回る。買うときに「一人暮らしなんで…」と余計な言い訳(?)をしているのが、われながら可笑しい。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。