「マッコリ飲んでニッコリ」。先般、日本に一時帰国した時に目にした地下鉄内の広告に思わずニッコリした。韓国マッコリの宣伝だが、日本でマッコリブームが凄いらしい。昨年のマッコリの日本向け輸出は前年比200%以上伸びて、韓国で人気急上昇中の日本酒の輸入額を上回ったと新聞は自慢していた。
マッコリのキャッチコピーなら私が先駆者と自負している。マッコリが精力にも効くと聞いて作った「マッコリ飲んでモッ○リ」は一時期、ソウルで大流行になった。もっとも、それは一部の日本人社会の中だけで、日の目を見ることはなかったが。キャッチコピーと言えば、先日、ソウルの南大門の土産物店で「ノリのり韓国」を発見した。海苔は今や韓国土産として人気1位だが、「ノリのり」の軽いノリは海苔の軽さにピッタリだ。
マッコリがいくらブームでも、やはり韓国酒番付での横綱は焼酎である。韓国の焼酎はアルコール度数25度前後が主流だったが、最近は健康志向もあって低アルコール競争に入っている。06年には馬山の酒造会社「舞鶴」が16・9度の「チョウンデー」(良い日)を出して業界を驚かせた。他社からは「17度以下は焼酎とは言えない」とやっかみ半分の非難を浴びたが、まろやかで洗練された味に飲んべーたちは飛びついた。釜山近辺でのシェアが急増した。
それまで釜山の代表銘柄はアルコール19・5度の「C1」(シウオン)だったが、醸造元の大鮮酒造は大慌てで、「よりまろやかで、最高の焼酎を作れ」とチョ社長が檄を飛ばして出来たのが「チュルゴウォ・イエ」。「楽しいね」という意味で、最後の「イエ」は釜山の方言。「○○ヨ」の「ヨ」が釜山では「イエ」となる。「イエッポヨ」(綺麗ね)は「イエッポイエ」。「チョウンデー」の「デー」も釜山の方言を示唆しているが、慣れると耳に心地よい。
「酔うための焼酎」ではなく、「楽しむための焼酎」というコンセプトで、アルコールも16・2度と軽くした。最初は16度を狙ったが、0・2度高い方がよりおいしいと言う事で、「0.2度の秘密」として売り出している。私も飲んでみたが実に軽くて爽やか。人気は上々だが、焼酎に一家言を持つ韓国人の友人が、「あまりに軽すぎる」と評価しているのが気になった。「チョウンデー」が首位を守っているが、今のところ、アルコールの強い「C1」も意外と健闘している。ソウルで圧倒的人気の眞露の「チャミスル」(19・5度)の釜山でのランクは高くない。プロ野球と同じように焼酎は地域性が強い。
ところで、韓国では葬式でも焼酎がたくさん飲まれるが、故人を偲びながら「チュルゴウォ・イエ」(楽しいね)はいかにも不謹慎ということで、最近、「クリウォ・イエ」(懐かしいね)が発売された。中身は同じだが弔意を込めてふたを黒くした。なかなか粋な事をするが、葬式で「チュルゴウォ・イエ」を飲みたい人がいたら困るな。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月から新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO株式会社・専務理事。