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2012/01/01

<随筆>◇韓国の民話~福を取りに行く人々~◇

 むかし、むかし、ある村にとても貧しい若者が住んでいました。あまりにも貧しいので、食べる物はいつも具の少ないお粥でした。

 ある日、若者がお粥を食べようとしたところ、元気のなさそうな住職が近付いてくるではありませんか。「そこの若者、お粥を少し分けてくださらんか」。一人分のお粥しかありませんでしたが、若者はためらうことなく住職に差し出しました。そして、住職はあっという間にお粥をたいらげました。

 住職が腰を上げようとすると、若者は尋ねました。「私の暮らしは、いつになれば良くなるのでしょうか?」。すると、住職は「10個の峠を越えた西側の国の渓谷に、幸せを得る場所がある。一度、行ってみるとよい」と答えました。そのまま若者は西側の国へ向かいました。

 一つ目の峠を越えると、辺りが暗くなってきました。茂みの向こうに一軒の家が目に入り、若者は「あの家で一晩泊まろう」と決めました。その家には、かわいいお嬢さんが一人で住んでいました。「遠方へ行かれるようですね」と話すお嬢さんに、若者は「はい。幸せを得るために西側の国へ行くのです」と答えました。これを聞いたお嬢さんは躊躇しながら「誰が私の夫になるのか、聞いて頂けませんか?」と尋ねました。

 2つ目、そして3つ目の峠を越えると…、

 白い服を着た老人が金の囲碁板で囲碁をしていました。老人たちは100年もの間、囲碁をしているそうです。ある老人が「いくら囲碁をしても、きりがない。いったい誰が囲碁で勝つのか、聞いてもらえるか?」と言いました。

 4つ目、5つ目、6つ目の峠を越えると…、一人の子どもが、お花畑に水をあげていました。子どもは「ほかの花は咲いているのに、この花はいくら水をあげても咲かないんです」と心配そうに花を見つめました。

 7つ目、8つ目、9つ目の峠を越えると…、広大な海が目に飛び込んできました。そのとき、灰色のおぞましく大きな竜が現れました。その竜は如意宝珠(願いが叶う宝の珠)を2つもくわえながら、「お前が幸せを得るために西側の国へ行く若者か?西側の国に着いたら、いつ私が天に昇るのかを必ず聞いてくれ」と言いました。すると、竜は背中に若者を乗せ、雲のように海の上を飛んでいきました。

 若者は無事に海を渡り、西側の国の渓谷に向かう最後の峠を一気に越えました。

 そこには今にも潰れそうな寺が一つありましたが、若者から粥をもらった住職が寺の中で座っているではありませんか。住職は「自分の幸せは、まもなく自ら見つけることになるだろう」と話しました。若者は拍子抜けしました。しかし、仕方がありません。若者は、道の途中で会った人達と竜に頼まれたことを住職に聞きました。

 住職は「お嬢さんの夫は最初に出会った人。囲碁は一生しても終わりのない勝負になるから、やめるよう伝えなさい。花は、土の中の金塊を掘り出せば咲くだろう。そして…」「竜は如意宝珠を一つ捨てると、天に昇れる。だが、一つだけ肝に銘じなさい。竜が海を渡ったら、この言葉を伝えなければならない」と話しました。

 そして、再び10個目の峠を一気に越えると、竜と会いました。若者は竜と再び海を渡った後、如意宝珠を一つ捨てるよう伝えました。

 すると、竜は「そうか。ありがとう。この如意宝珠は、お前にあげる」と言い、天に昇っていきました。

 9つ目、8つ目、7つ目の峠を再び越えると…、若者は子どもに会いに行き、「土の中を一度掘ってごらん」と話しました。子どもが土の中の金塊を掘り出すと、すぐに花が咲き始めました。子どもは感謝の気持ちを表しながら、若者に金塊をあげました。

 6つ目、5つ目、4つ目の峠を再び越えると…、

 老人たちが相変わらず囲碁をしていました。若者は老人たちに「一生かけて囲碁をしても勝負がつかないのなら、もうやめましょう」と話しました。すると、老人たちは「いままで無駄骨を折ったな」と言い、金の囲碁板を若者に渡して去っていきました。

 3つ目、2つ目の峠を再び越えると…、

 お嬢さんが若者を見るやいなや走ってきました。若者が「初めて会った人と結婚するそうです」と話すと、お嬢さんは驚きながら「私が初めて会った人は、あなたですよ」と叫びました。若者は踊りながら最後の峠を越え、家に帰りました。