絵本作家・大竹聖美さんのお話をきいた。「韓国の絵本作家との10年間の交流を通して」と題して、著者たちと交流する写真や美しい絵本などを持参し、パワーポイントを使って話された。
この会を主催したのは、2001年に調布市を拠点に活動している「異文化を愉しむ会」で、地域の住民とコリアンたちがFACE TO FACEの交流を通して、互いの文化や生活習慣を知り、その異いを愉しみながら、共に信頼し合う隣人として手を携えていきたい、との思いから発足した会である。会の発足10周年を迎え、特別企画として大竹聖美さんをお招きした。
絵本に親しむ機会の少なかった私は、韓国の絵本を手に取って、装丁の素晴らしさにくぎ付けになってしまった!
大竹聖美さんが韓国の児童文学に興味をもつようになったのは、小学校5年生の時、図書館で韓国の民話を見つけ、虎やトッケビ(韓国の昔話に出てくる妖怪)やキムチのカメ(甕)などが出てくる、その不思議な魅力にとりつかれ、民話の世界にたっぷりと浸ったそうだ。
大学四年次にゼミで児童文学の受賞作品を読むことになり、李相琴「半分のふるさと」(福音館書店)を選んだ。ゼミでは自分が選んだ作品の作者や編集者を直接訪問して取材することになっていたのでソウルに出向き、梨花女子大学で李相琴教授のお話を聞くことになる。その後大学院生の97年、ソウルで開かれたアジア児童文学大会に参加、修士課程を終え、韓国に留学することに。
ちょうど金大中氏が大統領に就任した年で、韓国では民主化運動の全盛期を迎え、出版運動も民主化とともにあり、その流れから「オリニ図書研究会」が正式に発足した。そしてグリム童話やアンデルセン童話が主流をなしていたものから、民族固有の文化に基礎を置いた創作童話を推奨していくことになる。
韓国初のこどもの本専門店「チョバン」がオープンしたのは90年、社長の申慶淑氏はアメリカで学んだ絵本の知識や公立図書館のコーナーの空間演出法を取り入れ、「マンヒの家」「ソリのチュソクばなし」「サムルノリ」など韓国の文化に根差した優れた絵本の企画を行った。これらの作品を読んでいると、温かで満ち足りた幸せな気分になると同時に韓国の文化に対する自負心をもち、文化の多様性を尊重する子供たちを育てたいというメッセージが伝わってくる。
両国の歴史認識の違いから翻訳に大変苦労されながらも、「韓国の創作絵本から、民族のオリジナリティーを表現する喜びと固有文化に根差した逞しさを感じる。隣国の豊かな文化が多く紹介され、それらを共有することができれば、日本の子供たちの文化にも新たな可能性が開けるに違いない」と、おおよそ2時間ほどの講演を結ばれた。「チョバン」は韓国の名門梨花女子大学の裏手にあるそうだ。機会をつくってぜひ訪ねてみたい。
オ・ムンジャ 在日2世。同人誌「鳳仙花」創刊(1991年~2005年まで代表)。現在在日女性文学誌「地に舟をこげ」編集委員。著書に「パンソリに思い秘めるとき」(学生社)など。