今年の冬はことのほか寒い。寒い冬はカニが美味い。でも高いからなーと諦めていたが、福井の姉から宅配便が届いた。越前ガニだ。さすがアネキ、弟の気持ちを分かっている。その日の夕食は早速、カニを肴に熱燗で久しぶりに深酒となった。「越前ガニ」とは福井県の越前海岸周辺で水揚げされた「ズワイガニ」のブランド名で、同じカニを山陰地方では「松葉ガニ」と呼んでいる。幻のカニと言われる「間人カニ(たいざがに)」は京都丹後半島の間人港で水揚げされたもの。「間人」とは変わった名前だが由緒ある地名らしい。他に兵庫県の「津居山(ついやま)ガニ」や「香住(かすみ)ガニ」も同じ仲間。
北海道近海や北の近隣諸国でもズワイガニは採れるが、特にブランド名は持っていない。値段もブランドガニより格段に安く、同じ仲間なのに冷や飯を食わされている。ズワイガニは雄の総称で雌は「せいこガニ」とか「香箱ガニ」などと地方によって呼び方は違ってくる。雌は雄の半分以下と可愛いサイズだが、卵巣や卵など濃厚な味は絶品で私は断然、雌の方が好き。もっとも雌好きはカニだけではありませんが。
ところで私がカニに詳しいわけは、ソウル駐在時代に「カニの会」の会長をしていたからです。会員になるには厳しい?入会テストを受けるが、問題は私が作りました。
①越前ガニや松葉ガニの学名は?(答はすでにお分かりですね。ズワイガニです)
②タラバガニはカニの仲間か?脚は何本か?(実はヤドカリの仲間で脚は8本)
③韓国の珍味・カンジャンケジャンに使われるカニの種類は?(ワタリガニ)
④韓国ではズワイガニを何と呼ぶか?(ヨンドク・テゲ。日本と同じ仲間です)
他にも格調の高い問題を出したが正解は少なかった。要は皆さん、美味しいから食べているのです。それでいいのです。ズワイガニの韓国名、ヨンドク・テゲは韓国の東海岸、浦項市の北部にある盈徳(ヨンドク)地方で採れるが、日本同様、年々数が減っており庶民の口には入りにくくなった。何年か前に産地を訪れたが水槽の中にはロシア産や北朝鮮産が幅を利かせていた。ソウル市内の食堂でも、ヨンドク・テゲと言っても実際は外国産が多いと聞いた。注意しましょう。もっとも人間と違ってカニは外見だけでは国籍は分かりませんが。
カニの会の発起人の一人は、ソウル市内の老舗居酒屋「つくし」の名物板前、Nさんだった。彼は城崎の出身。例会の時は少ない予算にもかかわらずカニを工面してくれたが、昨年、がんで亡くなられたと聞いた。Nさんはいつも「マイ一升瓶」を片手に私の横でグビグビやりながら、カニのように口角泡を飛ばしてカニ談義にふけったことを想い出す。
久しぶりのカニに舌鼓を打ちながら、いつしか酒豪のNさんに思いを馳せていた。
おおにし・けんいち 福井県生まれ。83―87年日商岩井釜山出張所長、94年韓国日商岩井代表理事、2000年7月新・韓国日商岩井理事。09年10月より韓国TASETO専務理事。2011年9月よりマッカン・ジャパン代表。