韓国で魚料理を食わせる“日式(イルシク=日本式)”なる日本料理屋に行くと「ケーブル」というのが刺身で出てくる。赤くてコリコリした生もので、刺身風のスライスではなく、ブツ切り風だ。クサみはまったく無く、ほのかに甘くて歯ざわりがいい。
ソウルでは珍味だが、釜山あたりでは屋台で水槽に入ったのを食わせたり、ごく馴染みの海産物だ。細身のナマコみたいで、ミミズのでっかいヤツといった感じだ。水槽の生きたのを見ると食欲はわかないが。
「ケーブル」とは、犬(ケ)の「ブラル(男のナニ)」の略というがホントかしら。生きたのを見るとたしかにナニみたいだ。日本の辞書で調べると「ユムシ」の一種で、食用に供するとは書いてない。
日本では食べないが韓国では人気という海の食材に「コムジャンオ」がある。ジャンオ(長魚)はウナギ系の名前で日本では「ヌタウナギ」と言っている。ウナギより小さく、目鼻立ちがはっきりしていないのでメクラウナギみたいだ。この皮をはいだのをブツ切りにし、コチュジャンをつけて焼いて食う。焼きながら食べるので屋台向きだ。元はこれも釜山あたりの名物だったが、ソウルでも人気がある。
人気が全国区になると消費量が増え、供給が追いつかなくなる。そして資源が枯渇し値段が上がる。当然の経済原理だが、「コムジャンオ」も品薄で今や日本から大量に輸入している。
韓国は海産物も対日貿易赤字になって久しい。その中に「コムジャンオ」も入っている。日本では食べないので原価はタダみたいなものだ。日本の業者にとっては実においしい輸出品ということになる。
「ケーブル」だって日本では食わないので日本から輸出したらどうだろう。
と、思っていたら、対韓輸出用のもっとまともな(?)海の食材を発見した。
「コムチ」という魚だ。韓国では俗称で「ムルメギ(水ナマズ?)」とも言って、東海岸の日本海側でよく獲れる。体長は三、四十センチほど、体は柔らかくてぶよぶよしている。身は白身で絹ごし豆腐のようだ。においも無く味も淡白そのもの。これを唐辛子味で鍋にし、すするように食べるが、歯ざわりというか、豆腐を食べているような食感が面白い。
「コムチ・クック」といって元は東海岸の江原道だけの名物だった。ところがこれも最近、ソウルに進出し珍味として人気なのだ。以前は漁師にとっては厄介モノ扱いだったが、需要急増である。
ところが「コムチ」が今年は不漁で、値段が上がり、店が泣いていると新聞が伝えていた。「コムチ」は日本では「草魚」と言うが食べない。辞書には「肥料にする」と出ている。肥料とはもったいない。これも韓国に輸出すればいい商売になるのでは?
くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者を経て、現在、産経新聞ソウル支局長。