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2012/10/05

<随筆>◇久しぶりのマツタケ豊作◇産経新聞 黒田勝弘 ソウル駐在特別記者兼論説委員

 韓国ではマツタケ(松茸)のことを漢字語の韓国語読みで「ソンイ」といっている。しかしキノコについては固有の言葉で「ポソッ」というのがあり、シイタケについては漢字語ではなくて「ピョゴポソッ」といっている。だからマツタケも、松は固有語では「ソル」だから「ソンイ」ではなく「ソルポソッ」といってもいいのにと思うが、そうなっていないのが面白い。

 またマッシュルームのことは「ヤンソンイ(洋松茸)」で、近年、出回っているエリンギは「セソンイ(新茸)」といっている。これらは外来種で栽培によって広がったものだが、いずれも「イ(茸)」になっているところを見ると、同じく「イ」のマツタケも外来なのかな?

 いやそんなはずはない。南北を含め韓半島には昔から存在する。最近、中朝国境の延辺朝鮮族自治州に行ってきた知り合いが、現地からのお土産だといってマツタケを持ってきた。あのあたりでも結構採れるらしい。

 日本人はマツタケが大好きだから、この名称はひょっとして日本起源の言葉かな、と思ったりしているのだが。

 ところで読者の皆さんには釈迦に説法かも知れないが、なぜマツタケかというと松の木(それもアカマツ)の下に生えるからだ。したがってその見つけどころは、松の木の下で松葉の落ち葉がもっこり盛り上がっているところだ。

 筆者は日本での駆け出し記者時代、広島に勤務したが当時、広島は日本一のマツタケの産地だった。そのころ陸上自衛隊第十三師団が広島市近郊の八本松に駐屯していて、その駐屯地にアカマツが多くマツタケがよく採れた。秋になると自衛隊からお招きがあって、マツタケ狩りをさせてもらった。だからよく知っているのです。

 マツタケは韓国では近年、不作が続いていたが、今年は豊作だという。昨年は需要最盛期の秋夕(チュソク=中秋節)で贈答用が一㌔百万ウォン(七万円)もしていた。それが今年はその三分の一ほどだという。「今年はたくさん台風が来て雨が多かったから」というが、どうかな。マツタケはいまだ人工栽培ができないほど、実に繊細かつ微妙なキノコだ。豊作の原因が簡単に分かれば栽培も可能になるのだが。

 というわけで今年はマツタケをたっぷり食えそうだが、しかしあれはしみじみと香りをかぎながら、薄く切ったのをもったいない感じでそっと口に入れるからおいしいのだ。

 筆者は韓国で豊作のたびによく食べてきた。このごろはマツタケとなると「丸ごとでなきゃ食った気がしない!」などと粋がるのだが、しかし山ほど食っては何もおいしくない。一㌔を贈答でもらって一人暮らしで毎日、食べてもありがたみはない。

 久しぶりの豊作で相当安いので、この秋は韓国土産にマツタケが絶好ですよ。


  くろだ・かつひろ 1941年大阪生まれ。京都大学経済学部卒。共同通信記者、産経新聞ソウル支局長を経て、現在、ソウル駐在特別記者兼論説委員。